身近な生物学T 春1学期
5.タンパ質の構造と機能
    タンパク質は生命体を構成する物質の中で、非常に重要なものである。たんぱく質の構造と機能について学ぶ。
(1)タンパク質の形成過程(おさらい)
  遺伝子DNA → m-RNA → リボゾームで → t-RNAが持ってきたアミノ酸を配列して結合→タンパク質

    アミノ酸
     アミノ基とカルボキシル基(酸)を持つ有機化合物。タンパク質を構成するアミノ酸は20種類ある。アミノ酸の種類の違いは、側鎖(R)の構造・成分によっている。
          
      NH2-CH(R)-COOH

    ○一次構造:タンパク質はDNAの情報に基づき、アミノ酸が一列に配列したポリマー(ポリペプチド)であり、基本は1本の長い糸である。

    ○二次構造:一本のリボン状のタンパク質は主に側鎖Rの結びつき、親和性、反発などによって一定の形にまとまる。

    ○三次構造:疎水結合などで、三次元構造が構成される。

    ○四次構造:複数のタンパク質サブユニットから構成される場合、これを四次構造という。

     これらのタンパク質の構造を形作っている力は、ファンデルワールス力、疎水性相互作用、水素結合などの弱いものが主体であって、イオン結合や共有結合などの強固な結合で全体ができているわけではない。逆に言えば、弱い力で立体構造が決まっており、酸性やアルカリ性、温度、基質の有無などによって容易に立体構造が変化し、例えば酵素として機能すると言えよう。

     しかし、タンパク質の骨格部分など、強固に結合すべき部位では強力なイオン結合や共有結合で連結されている。特異的なものとして、毛髪などに含まれるケラチンでは、硫黄を含むアミノ酸であるシスチンが約5%含まれており、これがジスルフィド結合(Disulfide bond: −S−S- )を形成して強固な構造となっている。

     ⇒シスチンを多く含む(ジスルフィド結合が多い)タンパク質は分解されにくい。

     ⇒生物の遺体には、多少なりとも硫黄を含む

     ⇒石油・石炭などの化石燃料には必ず硫黄が含まれている。
        石炭=0.3〜0.9% 石油=0.4%未満

     ⇒化石燃料をそのまま燃焼させると必ず亜硫酸ガス、硫酸ガスが発生する。

     ⇒排煙脱硫の仕組み
      石灰スラリー法:SO2 + H2O + CaCO3 → CaSO4・2H2O + CO2

(2)タンパク質の種類と機能
    酵素タンパク質:物質代謝、消化酵素
    構造タンパク質:コラーゲン、ケラチン
    輸送タンパク質:ヘモグロビン
    貯蔵タンパク質:卵白(オポアルブミン)
    収縮タンパク質:アクチン、ミオシン
    防御タンパク質:グロブリン
    調節タンパク質:遺伝子発現

(3)タンパク質の代謝
     植物は必要なアミノ酸を合成できるが、動物は食物として取り入れるタンパク質を分解してアミノ酸を調達することを基本方針とした。吸収したアミノ酸は化学反応により他のアミノ酸に変化させることができるが、複雑なアミノ酸は合成しにくく、動物はこの処理を放棄し、食物から取り入れることとした。これが必須アミノ酸である。

      必須アミノ酸:イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアアニン、トレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン

    食物中のタンパク質→(消化酵素で加水分解)→アミノ酸で吸収
      他の生物のタンパク質は免疫のターゲットとなるので、部品にまで分解して吸収する。

    吸収したアミノ酸
      ・作れない、あるいは作るのが大変なアミノ酸(必須アミノ酸)→そのままタンパク質の材料として利用。
      ・必要な非必須アミノ酸は加工して作る。
      ・過剰な(あまった)アミノ酸はアミノ基を切り離して糖分に変換し、エネルギー源とする。
      ・切り離されたアミノ基は尿素回路へ。

    尿素回路(オルニチン回路)
      各組織で発生したアンモニアはグルタミンやアラニンというアミノ酸の形で肝臓に運ばれる。
      肝臓において、ミトコンドリアと細胞質に係わる尿素回路で尿素に合成される。

       2NH3 + CO2 + 3ATP + 2H2O → NH2CONH2 + 2ADP + 2Pi + AMP + PPi

      上記の反応は、ATPが消費されているので、エネルギーを使って行われていることがわかる。
      NH3という産業廃棄物を処理するためのエネルギーである。
      この使われたエネルギーは、必要な代謝のためではなく、余分な反応であって、結果的には廃熱となる。
      したがって、低タンパク食であればこの廃熱量は少なく、肉食では多くなることになる。

(4)含窒素排出物
    @NH3
     人類では、1/5万の濃度で死に至る毒物。水に大変よく溶ける。したがって、水に溶かして捨てることができるならば、できればこの方法で排出すれば、安上がり。

    A尿素 CO(NH2)2
     水によく溶け、低毒性。

    B尿酸 C5H4N4O3
     水にほとんど不溶で、結果的に無毒。針状結晶となる。

    読みきり囲み記事
     第二次世界大戦の敗戦にともなって、米軍が日本に進駐してきた。日本人は食糧不足もあって毛布をかぶって暖をとるなどしていたが、米兵は冬にもかかわらず、半そででジープのオープンカーを乗り回していた。こんな人たちに戦争で勝てるわけはない、と思ったそうだ。

     これを「尿素回路」の観点から解説してみると、米兵は肉食であって、大量に発生するNH3を処理するために肝臓から大量の熱が発生しており、そのために半そででもよかったわkであり、当時の日本人はお米中心の食生活であったため、尿素回路からの発熱が少なく、寒がりであった、といえるわけである。
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