身近な生物学T 春1学期
4..生命の基本構造と共生による飛躍的発展
細胞の基本構造と機能について学ぶ。現在の細胞は複数の生命体が共生することから出発し、統一された1つの生命体となることによって飛躍的に進化してきた。このようなプロセスと細胞内構造体について理解する。
(1)生物として存在すべく特異な世界を作り出す:細胞
     海の中で誕生したと考えられている生命は、ポテンシャルを持った一つの世界:細胞を作り出す。この細胞の内部は、周囲の海水に比べて特異な、ポテンシャルを持ったものでなければならない。そうでなければ、生命とはいえないからである。

     そこで、ふんだんにあるNaイオンを排除した環境を誕生させ、比較的少ないKイオンを集積することで、外部である海の環境から特異な、励起状態の内部環境を作り出した、と考えることができる(Na+:K+=30.61%:1.1%)。

    mEq/L細胞外液細胞内液
    血 漿組織間液
    陽イオンNa+
    142
    144
    15
    K+
    4
    4
    150
    Ca2+
    5
    2.5
    2
    Mg2+
    3
    1.5
    27
    154
    152
    194
    陰イオンCl-
    103
    114
    1
    HCO3-
    27
    30
    10
    HPO4-
    2
    2
    100
    SO42-
    1
    1
    20
    有機酸
    5
    5
    蛋白質
    16
    0
    63
    154
    152
    194

    研修医.com より引用

     上記豹の細胞外液の塩分濃度は0.9%であり、現在の海水の塩分濃度の3.5%に比べてずいぶんと濃い。多くの脊椎動物の体液濃度も同様であることから、そのような濃度環境において現在の脊椎動物は進化してきたものと考えられている。

(2)特異な励起状態のイオン組成を維持するための細胞膜の特性
     外界とは大きく異なるイオン組成を持つ細胞内液を維持するための細胞膜は、どのような性質を持っている必要があるだろうか? 
     ○励起状態を維持するためには、イオンを通さない膜である必要がある。
     ○細胞が活動するためには、一時的にイオンを通過させる必要がある。
       この真逆な性質を実現する仕組みが、リン脂質の膜とタンパク質の島である。

    リン脂質 (ウィキペチアより引用)
    リン脂質(リンししつ、Phospholipid)は、構造中にリン酸エステル部位をもつ脂質の総称。両親媒性を持ち、脂質二重層を形成して糖脂質やコレステロールと共に細胞膜の主要な構成成分となるほか、生体内でのシグナル伝達にも関わる。

    構造:一般的なリン脂質は、 グリセリンやスフィンゴシンを中心骨格として脂肪酸とリン酸が結合し、さらにリン酸にアルコールがエステル結合した構造をもつ。アルコールには通常何らかの形で窒素が含まれる。脂肪酸やアルコールには様々な種類があるため、組み合わせによってきわめて多くの種類が存在する。

    リン酸は3価の酸であるため、3つのヒドロキシル基のうち2箇所が骨格ならびにアルコールとエステル結合を形成しても、残り1個所は電離してアニオンが生じる。構造中に疎水性の脂肪酸エステル部位と親水性のリン酸アニオン部位が共存するために、リン脂質は界面活性剤のような両親媒性を示し、水中では外側に親水性部を向けて疎水性部同士が集まることでベシクル状の安定な脂質二重層を形成する。

     難しいですね・・・・・ここで重要なのは、両親媒性(疎水性部と親水性部がある)ということ


    基本的には、リン脂質の二重膜である細胞膜はイオンを通過させない。細胞膜の中を遊動するタンパク質が必要に応じてイオンを通過させる仕組みとなっている。

(3)共生による飛躍的な進化
     継続的な突然変異の積み重ねで生物は進化していったであろう。そのような一歩一歩階段を登るような仕組みだけではなく、複数の生命体の共生という方法は飛躍的な進化を実現させることになった。

     複数の生命体が1つの生命として合体していく方法には、次の条件が満足されなくてはならない。
      @敵・異物として認められないこと(免疫のターゲットとならないこと)
      A造反が起きないために、遺伝子の一部を預託すること(人質を差し出すわけである)

読みきり囲み記事
     海で始まった動物の進化は、変化していく海の環境に適応して海にとどまったグループと、淡水に進出したグループに分かれていった。

    ○海に適応したグループは、濃くなっていく海水濃度に対応して体内の塩分濃度も高くし、ほぼ現在の海水と同程度の濃度となっている。これらには、多くの無脊椎動物と軟骨魚類などがある。(海水と体液は等張)

    ○淡水に進出したグループの体液は0.8〜0.9%であり、淡水に進出した時点での海水の濃度を示しているものと考えられている。淡水に進出した魚類はカルシウム不足に対応するために骨組織に貯蔵するシステムを進化させた⇒硬骨魚類の誕生。
     硬骨の獲得によって運動能力が飛躍的に上昇した硬骨魚類は、再び海に回帰して海の世界も制覇することとなった。硬骨魚類のあるものは、海と淡水環境を往来するものがある。海から淡水へ、さらに海へと活動してきた歴史を背負った行動・繁殖様式である。
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