身近な生物学T 春1学期
3.生命の上陸
    光合成細菌の出現によって大気環境は大きく変化し、生命は陸上で生活することが可能になった。その仕組みとともに、これに伴う動物の進化について学ぶ。
(1)大気中の酸素ガスとオソン層の形成
     シアノバクテリアの出現によって水中に酸素ガスが放出されたが、当初は原始海水中に含まれる膨大な量の無機物あるいは有機物の酸化に利用され、酸素ガスが安定的に存在するようになったのは、これらのさまざまな物質が酸化され、分解されたり沈殿してからであった。

     大気中の酸素ガスが増加すると成層圏でオゾン層が形成された。酸素ガスは紫外線のエネルギーを吸収してオゾンとなる。その結果、紫外線は吸収され、地表面に届きにくくなった。⇒陸上生活の可能性

      3O2 → 2O3

    オゾンは強力な酸化作用があり、酸化剤、殺菌剤、脱臭、有機物の除去などに使われる。

(2)大気中の酸素ガス濃度の上昇に伴う動物行動の活発化
     酸素ガスが少ない時代においては、動物はシアノバクテリアの傍を離れることはできず、活発な行動を行える環境ではなかった。従って、運動器官は貧弱であったはずであり、これにともなって神経系も低い次元で足りたであろう。
(3)酸素ガスの水に対する溶解度
     酸素ガスは比較的水によく溶ける気体であり、水中の動物はこれを取り入れて酸素呼吸を行っている。気体は一般的に低温で高い溶解度を示し、高温になると水から離脱してしまう特性があり、酸素も同様である。従って、水温が高いと溶存酸素量が少なくなり、水中の動物は呼吸しにくくなることになる。⇒水中の動物は、熱帯で上陸したに違いない!

    参考資料:気体の水に対する溶解度
(4)体温の上昇に伴う呼吸系の進化 -血色素の誕生-
     体が大型化すると、体温が上昇する。活動が活発になると、さらに体温が上昇する可能性がある。体温の上昇は、体液の酸素運搬能力を低下させることになる。その結果、体液の酸素運搬能力を向上させるためにヘモグロビンのような酸素ガスと結合し、酸素ガスを運搬する専用の血色素が誕生することとなった。
     
(5)体液溶存型からカプセル封入型へ -赤血球の誕生-
     血色素の獲得によって飛躍的に血液の酸素運搬能力は高まった。血色素の代表であるヘモグロビンは鉄とたんぱく質が結合したものである。血液の酸素運搬能力を増強するためには、血漿中のヘモグロビンを増加させればよいが、たんぱく質濃度を高めれば、血液の粘性が高くなり、循環させることが困難になる。⇒カプセル(赤血球)の誕生

      ヒトの血液
      • 比重:男 1.055  女 1.052
      • 赤血球数:男 500万/mm3  女450万/mm3
      • 白血球数:5000から8000/mm3
      • 血小板:20〜50万/mm3
      • ヘマトリット値 男42% 女37%
      • 血漿タンパク質7% (そのうちアルブミンが56%)
      • pH7.4
(6)体表呼吸の減少に伴う呼吸系の進化 -1心房1心室から2心房2心室へ-
     動物が大型化するにつれ、相対的に体表面積が減少する。その結果、体表呼吸の割合が減少し、呼吸専用の器官を分化させる必要が生じ、それと同時に呼吸器官と体全体を結ぶ運搬経路である循環系も分化させる必要があった。

読みきり囲み記事
    南極海の氷山の下で、ヘモグロビンを持たない魚が発見された。魚類は基本的に血液にヘモグロビンを持っているわけだが、この魚は突然変異でヘモグロビンの合成能力を失ったらしい。通常ならば、高度な「貧血」で生存も危ぶまれるということになるはずだが、4℃という寒冷環境で生きることが可能であったらしい。
目次へ / 前のページへ / 次のページへ