身近な生物学U 春2学期
2-4.寄生と共生
 生物同士の関係には、病原菌のように相手を死に至らしめるものもあるし、協調して単独同士よりも生育状態を改善したりする、いわゆる共生という段階まで多様である。生物は単独では生活することができず、程度の違い、立場の違いがあって、寄生的あるいは共生的な関係である場合があるが、この関係も時間的には変化する。このような関係について考えてみよう。
@寄生
 寄生とは、一定期間継続して寄主が当然得るはずの栄養物を取得し、寄主にはっきりとした不利益を与えることであり
    回虫
     人類の最も普遍的な寄生虫であり、雌雄異体で長さ35cmになる線形動物。小腸内に生息し、寿命は2〜4年。成体の雌は10万〜25万個/日の卵を産む。卵は糞便とともに排出される。人体には経口で感染し、消化管内で孵化し、体内をめぐって気管から食道内に移動し、腸官へと移動して定着する。

     奈良時代の便所の遺構から回虫の卵が検出されている。この時代から糞尿を農耕の肥料として利用したことから、回虫の感染が多くなったのではないかと考えられる。糞尿が畑に肥料として施され、含まれていた回虫卵が野菜に付着し、再び人類へと感染する循環経路が完成している。

     野菜の回虫卵付着率(1960年頃)
    種類名回虫卵の付着率(%)1株の卵数(最多〜最少
    キョウナ
    64.5
    17〜1
    コマツナ
    51.7
    39〜1
    ホウレンソウ
    33.3
    25〜1
    ハクサイ
    31.7
    6〜1
    ダイコン(葉)
         (根)
    73.9
    61〜1
    36.8
    4〜1
    ニンジン(葉)
         (根)
    50.4
    8〜1
    12.9
    2〜1

     1960年頃、回虫の寄生率は都市で30〜40%、農村で60%にも及んだという。その後、寄生虫卵が付着していない野菜への要求が高くなり、化学肥料によって栽培される「清浄野菜」が作られ、回虫の寄生率は激減することになった。現在の寄生率は0.02%であり、ほぼゼロに近い。

     一方、東南アジアなどの発展途上国では40%程度の国もあり、外国旅行などにおける野菜の生食には十分な注意が必要であるし、一定期間ごとに駆虫薬の使用などが検討されるべきであろう。野菜の生食、漬物は感染する可能性があるので、御浸しにするなどの加熱作業を含むことが望ましい。

    ハリガネムシ
     我々の生活では、カミキリムシのお腹から出てくる長さ10cmを超える針金状の寄生虫としてなじみが深い。カマキリやバッタ、カマドウマ、ゴミムシ、コオロギなどに寄生し、腹部を破って脱出し、水中へと移行する。時折、水の中をくねりながら泳いでいるのを見ることがある。淡水中で産卵し、受精卵は孵化して幼生となって水生昆虫に取り込まれて体内でシストとなって休眠する。

     水生昆虫が羽化し、カマキリなど陸上の肉食昆虫に食べられると休眠からさめて体内で成長する。寄主の脂肪組織や生殖組織などを食べるので、寄主は性的能力を失う。

     秋になるとハリガネムシは寄主の行動をコントロールし、水に飛び込ませて尾部から脱出する。ハリガネムシは水中で自由生活を行い、産卵する。

     岡山はハリガネムシの寄生率が高い地域である。秋になるとカミキリムシが側溝の水を求めて道路端をウロウロし、自動車に轢かれてハリガネムシが出ているのをよく見る。水の匂いがするのに蓋がしてあって、溝に近づけないのである。


カマキリから出てきたハリガネムシ               干からびてしまったハリガネムシ


A共生
     一定期間、共に生活することを共生というが、相互に利益を得る関係を相利共生という。単に共生といえば、この相利共生をさす。

    クスノキのダニ室




読みきり囲み記事
     菌類や寄生動物にであったことが少ないと、免疫系が敏感となり、アレルギー反応がおきやすくなるという意見がある。昔は多少なりとも寄生虫におかされるのは普通であり、その頃には食品アレルギーや花粉症などは無かったか、あるいは極少なかったことが根拠の1つである。

     免疫系は敵を見定めて攻撃することが役割であるが、敵が居なければ、何が敵なのかを探し、敵を作り出してしまう、というのがこの論のイメージであり、明確な敵を提示してやれば、目標が定まり、正常な状態となることになる。

     寄生虫がいない環境になってしまうと、ワクチンのように、寄生虫を改良してほとんど無害なものとし、摂取するなどの対応が必要なのかもしれない。もとより生物体は多数の生物の共生体であり、極度の清潔な状態とせず、多様な生き物と仲良く生活していくことが本来の姿なのであろう。
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