身近な生物学U 春2学期
2-3.食物連鎖と生物濃縮
     それぞれのバイオームでは、生産者とこれを食べて生育する消費者、そして分解者が組み合わさって、群集を構成している。食物連鎖の各段階では大幅なエネルギーが運動エネルギーなどに変化して失われる。これらの関係をバイオームに着目して考えていく。また、食物連鎖に伴う生物濃縮についても学ぶ。
@食物連鎖food chain
     生態系をマクロに見ると緑色植物の「生産者」、それらを利用してエネルギーを獲得する動物である「消費者」、これらの遺骸や排泄物を分解して緑色植物が利用可能な形にする菌類などの「分解者」の3つに分けることができる。これらのうち、消費者は草食動物や肉食動物などの食性によってさらにいくつかの段階に分けることができる。これらの捕食⇔被食のつながりの関係を食物連鎖という。

        草→バッタ→小鳥→オオタカ

     といったつながりが食物連鎖の例であるが、実際には草はバッタだけに食べられるのではないし、バッタも小鳥にだけ食べられるわけではない。そして小鳥はバッタだけを食べるわけではなく、果実を食べることもある。このことでわかるように実際には生物と生物のつながりは1本の鎖ではなく、網の目のように複雑につながっているものであり、食物網(food web)という関係のほうが、現実の世界にあっている。

Aエネルギー同化率
     被食者から摂取したエネルギーのうち、何%を捕食者が同化したのかを同化率という。実際には摂食した食物のすべてが消化吸収されるわけではなく、未消化のまま、あるいは吸収されずに排出されるエネルギーもある。また、食物を得るための運動エネルギーも大量に消費される。

     陸上の緑色植物のエネルギー同化率は1%オーダーとされている。植物を栄養源とする草食動物のエネルギー同化効率は、栄養価の低い植物が食物であるだけにやや低い同化率にならざるを得ない。概数としては10%オーダーである。肉食動物のエネルギー同化率は高く、30%程度になる場合もある。

     このようなエネルギー同化率のため、草食動物は長い時間を摂食行動に費やす必要があり、乾燥させれば燃料となる大量の糞を排出する。肉食動物は一度に高いエネルギーを得ることができ、食事に費やす時間は少なく、余暇がある生活を営むことができる可能性があるといえよう。

Bエネルギー同化率と栄養段階
     生産者→一次消費者(草食動物)→二次消費者(肉食動物)→三次消費者(肉食動物) という各ステージを栄養段階という。この栄養段階で、大量のエネルギーが失われる。大まかに言えば、植物→草食動物でのエネルギー同化率は10%程度であり、90%が未利用あるいは運動エネルギーなどで失われる。草食動物→肉食動物、肉食動物→肉食動物では約20%の同化率となる。

     草食動物と肉食動物を比較すれば、肉食動物は草食動物の1/10しか存在することができない。肉食動物を食べる肉食動物は1/100しか存在できないわけで、生息には広大な緑が必要になることになる。このようなルールを前提にすれば、栄養段階の数は4〜5に限定されることになる。これは、小さなものが大きなものに食べられることが前提となっており、寄生を考慮すれば、かなり栄養段階の数は増えることになる。

C食物連鎖と生物濃縮
     我々が日々食物として取り入れている物質のうち、水溶性のものは尿などとして比較的速やかに排出されていく。逆に言えば、体内に貯蔵しにくく、常に新たに取り入れる必要がある。代表的なものとして、ビタミンC、B群がある。一方、脂溶性ビタミンであるA、D、Eなどは脂肪組織や肝臓などに蓄えられ、過剰に摂取すると逆に病気の原因となることがあります。また、生命体にとって栄養分とみなされ、積極的に吸収して貯蔵してしまう物質も体内で濃縮されてしまいます。
     上記のような物質は、食物連鎖の過程の中で、上位の生物に濃縮される傾向が高く、これを生物濃縮といいます。

    DDT:有機塩素系殺虫剤。残留性た高く、分解しにくい。1981年に製造と輸入が禁止され、2001年に残留性有機汚染物質に指定されたが、2006年にマラリア対策として室内残留性噴霧を奨励する方針が出された。 環境ホルモンとして機能することが知られており、性の決定や発ガン因子として機能している可能性が指摘されている。

    PCB:ポリ塩化ビフェニール。熱に対して安定で、電気絶縁性が高く、耐薬品性が高い。加熱、冷却用熱媒体、変圧器、コンデンサなどの絶縁油、可塑剤、塗料、ノンカーボン紙や印刷インクの溶剤など。脂肪組織に蓄積しやすく、発がん性があり、内臓障害、ホルモン異常を引き起こす。1972年に製造輸入使用を原則中止。1973年に法的に禁止。(カネミ油症事件)

    水俣病(メチル水銀):新日本窒素肥料がアセトアルデヒドの生産に触媒として使用した無機水銀が原因。1950年代から1960年代にかけ、八代海に流れ込む水俣川に流した工場排水が原因。地域の魚介類の摂食が原因。1960年には新潟県阿賀野川で昭和電工からの工場排水により第二水水俣病が発生した。

読みきり囲み記事:妊婦が食べない方がよい食品

 ・本マグロ、インドマグロ、メバチマグロ、クイロカジキ、メカジキ、マカジキなどのマグロ類とその加工食品
 ・金目鯛、ムツなどの深海魚

 自然界に存在するメチル水銀は、普段食べるには取り込まれても徐々に対外に排出されます。しかし、胎児には体外に水銀を排出する機能が無く、神経障害や発達障害をもたらす危険がある。大型の魚介類は自然界に存在する水銀を食物連鎖の過程で体内に蓄積しており、日本人の水銀摂取量の80%以上が魚介類由来である。そのため、特に妊娠初期は魚を主食にする頻度は週に1〜2下位程度が安心。

 ・レバー
 ・ウナギ
 ・アユ
 ・ホタルイカ

 上記の食品は、ビタミンAを多く含んでいる。ビタミンAは胎児にも重要な栄養素であり不足すると成長障害を引き起こすが、動物由来のビタミンAを過剰に摂取すると口唇裂・口蓋裂、水頭症などを引き起こすリスクが高くなる。植物由来のビタミンAを摂取することが望ましい。
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