● 今後の管理に向けて |
イトクズモ保全対策において整備された本保全区域では、今年度も本種の生育が認められ、経年的にもイトクズモの生育に適する環境であることが評価されます。しかし今後、本種の生育の維持を目的とする管理作業においては、より効果的なものとし、作業労力、コストの低減に努める必要があります。 第1回〜第4回までの岡南飛行場イトクズモ検討懇談会(以下、懇談会)において立案された保全区域の管理に関わる基本方針としては、下表の内容が提示されており、管理の省力化と管理コスト軽減の必要性が掲げられています。また、第6回懇談会においては、保全区域ごとに管理の度合いに差を付けるなど、作業内容や作業範囲の重点化による管理作業の効率化を行うことが、懇談会委員より提言されています。ここでは、現在までの本種の生育モニタリング調査結果に基づき、管理の省力化と管理コストの軽減を目指した管理作業についての検討を行いました。 |
〔 管理における基本的な考え方 〕 | |
@遷移の進行の抑制 | |
ヨシ、ヒメガマ、マコモ等の大形抽水植物の過繁茂によるイトクズモの生育への悪影響を防ぐ。 | |
A範囲を限定した自然環境教育の場としての管理計画 | |
範囲を限定して、汽水域に生育・生息する生物を人為的に導入する。また、投げ捨てられたゴミなどは速やかに撤去するなど、自然環境教育の場として相応しい環境整備を行う。 | |
B目標に適合した管理の実施 | |
水位調節や水の交換、植生計画において、それぞれの保全区域における目的を明確にした適切な管理を行う。 | |
C管理の省力化と管理コストの軽減 | |
管理体制、ならびに管理手法、管理の内容の計画に当たっては、管理がおろそかにならないように、省力化とコストがかからない体制を指向する。 |
○ 管理作業の内容について |
・ 水深,水質計測と除草作業について |
今年度は、昨年度の調査結果および第6回イトクズモ検討懇談会の検討事項を踏まえて作成された、管理マニュアルに従って管理作業を実施しました。その作業の中で、イトクズモの良好な生育を確保する上で重点的に管理作業を行うべき時期や、生育を妨げる雑草の除草手法等について、以下のことが明らかになりました。 |
〔水深と水質の計測ついて〕 | |
・イトクズモにとって4〜6月は、生育量が最も増加し、多量に結実する大事な時期である。このため、2〜6月(イトクズモの生育に重要な4〜6月とそれ以前の2ヶ月間の計5ヶ月間)には水位と水質の計測を行い、10〜20cm程度の水深と、0.1%以上の塩分濃度が確保されているのかを確認する必要がある。 ・7〜8月は雨量が少なく、水位の低下と乾燥化により本種の生育環境が悪化する時期である。このため、7〜8月には水位の計測を行い、10〜20cm程度の水深が確保されているのかを確認し、場合によっては給水を行う必要がある。 |
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〔除草作業について〕 | |
・エビモは、イトクズモと生活環が同様で、本種の成長初期である1〜4月にかけて生育量が増加し、イトクズモの生育を阻害する恐れがある。このため、4月以降も過剰に繁茂した場合は除去が必要である。 ・ヨシやガマは、イトクズモの生育環境を覆い、さらには水域の陸域化を進行させる植物である。また、両種は4〜8月にかけて生育量が増加し、イトクズモの生育を脅かす恐れがある。このため、これらについては除去もしくは網柵の設置などの侵入防止対策が必要である。 ・9月から翌年の1月には雑草の侵入やそれらの繁茂がほとんど見られず、除草作業を行う必要がない。 |
以上から、本種の良好な生育を確保する上で、2〜8月における水深の計測、2〜6月における水質の計測、4〜8月における除草作業が最低限必要であると言えます。これらを踏まえた管理作業案を下表に示します。 |
表 調査結果を踏まえた管理作業案 | |
管理項目 | 管理作業の内容 |
保全区域の巡視 | ・毎月1回を基本に適宜保全区域の巡視を行い、イトクズモの生育状況を観察する。 |
水位の調節 | ・年間を通じて10〜20pの水深を維持し、特に2〜8月には現地確認を行い、この水位の確保に努める。 ・降雨などにより一時的に水位の極端に上昇した場合は、排水堰の調節により、40p以下の水位を維持する。 ・極端に水位が減少した場合(特に7〜8月)は、専門家の意見を踏まえた上で、水道水や福成川の表流水を導水するなどの対策を講じ、適切な水深を確保する。 |
雑草の除去 | ・イトクズモの生育を脅かすエビモ,ヨシ,ガマなどの雑草を対象とする除草作業を4〜8月に毎月1回程度実施する。 ・側水路においては、ヒシの除去を目的に重機による除草を年2回(6月上旬,7月中旬〜8月上旬)、3年間継続して行い、その後は経過を観察し、適宜実施する。 ・薬剤は使用しない。 ・特定の雑草が優占し、イトクズモの生育に長期間影響を与える状況が確認された場合は、専門家の意見を踏まえた上で対策を講じる。 |
塩分濃度の調節 | ・塩分濃度が3.0%(海水)以上となり、生育への影響が確認された場合は、水道水及び福成川の表流水を導水して希釈する。 ・栄養成長期間に塩分濃度の低下した状態(0.1%以下)が継続し、生育への影響が危惧された場合は、専門家の意見を踏まえた上で対策を講じるが、特にイトクズモの生育にとって大事な2〜6月については塩分濃度に異常がないか水質の測定を行う。 |
注)太字でアンダーライン部が調査結果を踏まえた変更箇所。なお、現在までの観察では2〜6月中において、長期間、水位が10p以下になり、塩分濃度が0.1%以下になった状態は観察されていない。 |
・ ゴミの除去について |
雑草の除去と同様に特記すべき課題として、保全区域へのゴミの投げ捨てが挙げられます。投げ捨てらるゴミは側水路が最も多く、その種類も空き缶、紙屑、雑誌類など様々です。ひょうたん池、三日月池においても同様にゴミの投げ捨てが確認されていますが、側水路ほどではありませんでした。側水路において、多数のゴミが投げ捨てられている原因としては、車道に面することのほか、他の保全区域と異なり、貴重植物の保全施設に見えないことが挙げられます。また一方、付近の住民からは、保全区域が害虫の発生源になっているのではないのかと言った苦情が寄せられたこともありました。 これらについては、本保全区域における自然環境保全の目的が、地域住民に正しく理解されていないことが原因の一つと考えられます。今後は、ゴミの投げ捨てを禁止する看板を設置することもなども重要ですが、イトクズモ保全区域を紹介するホームページやパンフレットを作成して、広く地域住民に本保全対策事業の存在をアピールし、付近の小中学校や各種自然愛護団体などを対象とするイトクズモの観察会を開催するなどして、環境教育や啓蒙的な活動に本保全区域を利用してもらえるよう勤めることも重要と考えます。 |
写真 ゴミ拾いの状況(H12.12.27) |