● 観察結果 |
○ 平成12年度のイトクズモの生育状況 |
本年度は、4月の第1回目の定期観察時から、全保全区域でイトクズモの良好な生育が確認され、その後も6月まで、順調に生育量は増加していました。しかし、夏期の渇水(平年の1/4の降水量)によって、全保全区域の水位が低下したため、イトクズモの生育が困難になり、側水路では8月、ひょうたん池、三日月池では7月の定期観察時に本種の生育が確認されなくなりました。しかし、9月以降には雨量も回復し、水位も通常水位まで上昇し始めため、全保全区域がイトクズモの生育に適する状況となりました。これにより側水路では9月、ひょうたん池では11月、三日月池では2月にイトクズモの生育が再び確認され、特に側水路では順調に生育量が増加し、3月現在では、保全区域全面を覆うほど良好に生育しています。また、ひょうたん池、三日月池においても、着花・結実は確認されていないものの、生育量は増加する傾向にあると判断されます。 |
図 イトクズモの生育状況 |
図 保全区域の水深 |
図 岡山市の降水量と気温(平成12年、13年.気象庁調べ) |
・ イトクズモ生育量の季節変化について |
各保全区域におけるイトクズモ植被率の季節変化を下図に示します。これによると、側水路では8月の渇水期を除いて常時生育が確認され、当保全区域がほぼ一年を通して本種の生育に好適な場所であったと言えます。一方、ひょうたん池、三日月池においては、4〜6月と、12〜2月に生育が確認されましたが、良好な生育が確認されたのは4〜6月でした。これらから、全保全区域においてイトクズモの植被率が最も高かったのは4〜6月であり、この期間が、当保全区域において本種が最も盛んに栄養成長を行う期間であると判断されます。 |
図 イトクズモ植被率の季節変化 |
・ 植被率と葉長の関係 | |
各保全区域におけるイトクズモの植被率と葉長の関係を下図に示します。これによると、植被率が少ない時は葉が長く、植被率が増加すると、葉が短くなる傾向にあることが解ります。 |
図 イトクズモの植被率と葉長の関係 |
・ 植被率と開花・結実状況、葉長の関係 |
今年度、最も生育が良好であった側水路におけるイトクズモの植被率、開花・結実状況、葉長の季節変化の関係を下図に示します。これによると、植被率が増加するに従い、開花・結実の割合が増加し、葉が短くなっていることが解ります。一般に、植物が子孫を残すために開花・結実を行う際、ある程度の個体および群落の成熟とエネルギーの蓄積が必要であると考えられています。本種の場合、4〜6月までの生育適期に生育量を増加させ、多量の種子を結実していたわけですが、この時期に葉が短くなったことは、生育密度が増加し、生育可能な空間が減少したためか、もしくは種子を生産するために、葉の生長を抑制したためと考えられます。 |
図 側水路におけるイトクズモの植被率・開花・結実状況と葉長の関係 |
・ まとめ |
辻・國井(1998)より、イトクズモは、葉の平均寿命が15.3日と短く、光合成速度の非常に高い植物であることが報告されています。また本種は、洪水、渇水などの撹乱によって他の植物が一掃された後に成立するオープンスペースにおいて、埋土種子を一斉に発芽させ、短い期間で群落の成長、開花・結実を終える植物であるとも考えられています。保全区域のイトクズモについても、夏期の渇水で植物体は消滅しましたが、側水路では9月の降雨で水位が上昇したと同時に生育量が約70%まで回復し、10月以降には、開花・結実が確認されるなど、撹乱耐性植物としての特性を垣間見ることが出来ました。 保全区域内で観察されたイトクズモの生活史をまとめ、図に示しました。今年度の調査では、現在、保全区域内で生育するイトクズモの生育適期が4〜6月であることが明らかになりました。この結果は、平成7〜8年の事業実施以前に実施した生態調査において把握されたイトクズモの生活環とほぼ一致しており、当該地のイトクズモの更新にとって4〜6月が特に注意を必要とする時期であると言えます。 |
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