3年間の継続観察を振り返って
−結果と評価−
鯉ヶ窪湿原のハンノキ林においてミゾソバやアメリカセンダングサ、クマイチゴなどの繁茂とリュウキンカやビッチュウフウロなどの衰退現象が観察され、問題となって4年の年月が経過した。ほぼ、ライブで報告してきた一連の画像を眺めてみると、ミゾソバの大群落が消滅し、リュウキンカの繁茂は著しく、当初の目的を達成した、あるいは達成しつつあると実感できる。ここで、当初からの調査研究から導かれたミゾソバ等の繁茂の原因推定と対策に関して、現時点における評価を行っておきたい。
1.ミゾソバやアメリカセンダングサ繁茂の原因
ハンノキ林の林床におけるミゾソバやアメリカセンダングサなどの繁茂は電気伝導度の値から、富栄養化したと考えて問題はなかろう。比較的近隣のおもつぼ湿原では、湿原涵養水の不足を水田からの排水で補ったため、ハンノキ林の林床にアメリカセンダングサやミゾソバ、アキノウナギツカミなどが大繁茂し、ノブドウやミツバアケビなどのツル植物がハンノキに絡んで引き倒すほどの状況になった。このような観察事例も傍証となろう。
水田からの水を導水したためにハンノキ林の林床に繁茂したアメリカセンダングサ
遠景の林床はカサスゲ。草丈が1.5mを越え、倒伏している。
2.富栄養化の原因
富栄養化の原因としては流入水域に人家等が存在しないことなどから、乾燥化による土壌有機物の急速な分解によって貯留されていた栄養塩類が放出されたものと考えている。
このような富栄養化は中央水路の侵食によって水位が低下し、湿原域が乾燥化したとの推論に立脚している。この推測が確かであるかどうかは証明できないが、中央を流れる流路に堰堤を設置し、導水路を掘削したことなどによって表面を貧栄養な水が流れることによって、これらの地域は通常の水質に改善された。このような湿原植生の変質可能性については、すでに1984年の調査において指摘していたことであるが、現実として植生の変質を招くまでに10数年の年月が経過する必要があったことになる。対策が十分な効果を上げたことから、これらの推測は、一応正しかったと考えている。
3.工法について
深さ2mにも及ぶ水路への堰堤構築は、現場近隣で袋つめして作成した土嚢を投入するという簡便な方法を採用した。経費的にももっとも安価であり、悪影響があった場合には容易に復元できる点を考慮したものである。また、それまで日光戦場ヶ原などで設置した板製の堰が漏水によって崩壊するなどの経験にも立脚している。今回の施工では、土嚢による堰堤構築に習熟している作業員の存在も大きかった。
土嚢による堰堤構築は、半年を待たず、その存在すら認識が困難である状況となった。長期的には強度に不安はあるが、水路への堆積も急速に進んでおり、堰堤へかかる水圧も減少しつつあるように思われる。今後さらに多数の土嚢による堰堤構築により、これらの構造物は埋没し、湿原地形と一体なものになると考えられる。
4.今後の課題と展望
○侵食環境から堆積環境へ
水路の深掘れの影響は湿原全体に及んでおり、ハンノキ林の上流域においても広く流路の固定と乾燥化(湿原面積の減少)をもたらしている。今回の堰堤構築により、湿原全体は堆積傾向へと変化したはずである。その影響はまず堰堤近辺で顕著となり、次第に上流部へも影響を及ぼすことになるはずである。現在見られている湿原周辺域における草原生・森林生種の侵入は、その地域が堆積傾向となれば防止でき、回復できるはずである。
現在までの水路への急激な堆積の進行は、裏返せば湿原から大量の土砂が流出していたことを示している。
○日照の不足
鯉ヶ窪湿原のハンノキ林が発達する地域は東西に長い谷である。ハンノキ林の南側の山地斜面には樹高20m前後の立派な森林が発達しており、ハンノキ林の一部は日照不足に陥っていると考えられる。この日照を遮っている樹木の一部は適度に除間伐し、日照を回復させる必要があろう。
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