追跡調査 その2 (1999年7月2日)
7月2日に鯉が窪湿原を訪れた。5月の時点にくらべると、湿原には初夏の新鮮な緑が広がっており、まことにさわやかであった。
さて、問題のミゾソバの生育に関しては、残念ながら昨年の夏とほぼ同様な繁茂状況であり、清冽な水の導入にもかかわらず、期待は裏切られてしまった。生育量などの詳細な調査は実施しなかったが、簡単な印象について記録しておく。
・導水路などの植生回復状況と植生
導水路は発達した植生に被陰され、確認が困難な状況にまで植生は回復している。全ての水路を確認したわけではないが、ほぼ、予想したとおりの水の動きが観察され、一部水まわりが悪い地域があるものの、ハンドリングした地域においては湿潤状態を保つことができていると思われた。
・ミゾソバの繁茂状況
調査時点においては、ほぼ昨年の夏と同様な繁茂状況であり、春期に調査した時点に観察された多数の芽生えが成長したものである。ミゾソバ優占地の下層には、コバギボウシやビッチュウフウロなどの湿原植物が被圧された状態で生育しており、現時点においてはこれらの湿原植物がミゾソバとの競合に勝利できていない。
ミゾソバは一年生草本であるので、本年春期の多数の芽生えは昨年度の富栄養な条件において生産されたものである。本年は貧栄養状態に保てていると考えられ、本年の開花・結実状態が昨年度に比べて不良であることを期待しているのであるが、どのようになるであろうか。
ミゾソバの生育は単年度の環境条件に大きく影響を受けるので、環境を貧栄養状態に保つことができれば、やがて多年生草本の湿原植物が次第に優勢になるはずである。しかし、湿原植物の生長は非常に遅いので、ミゾソバとの競合にうち勝つためには、数年以上の年月が必要なのかも知れない。岡山県自然保護センターに播種したコバギボウシは、開花するまでに8年を要した。貧栄養な環境に耐えて生長する湿原植物の生長の遅さを示している事例である。
・その他の侵入植物の状況
昨年度の調査では、湿原内にはミゾソバ・アキノウナギツカミ・ウナギツカミ・アメリカセンダングサ・クマイチゴ・ノブドウ・イボタノキなどの生育が確認された。特にアメリカセンダングサやクマイチゴなどの植物が生育している状態は、湿原としては異常な状態であることを示している。これらの植物は、好窒素性の種であり、水田の周辺や森林伐採の跡地などに生育する植物であるからであった。
今回の調査は全域をくまなく歩いたわけではないが、昨年度に群生していた場所には生育が見られず、当面、これらの植物の生育は水位の上昇と栄養条件の改善により、防止できたものと考えられた。