フジキ Cladrastis platycarba (マメ科 フジキ属)
フジキは,本州(福島県以南),四国に分布する落葉高木です。県内には同属の
ユクノキも自生していますが,こちらは本種と比べて随分と少ないようです。
この写真は,秋も深まりつつある11月初旬,吉井町の山林で撮影したものです。もうかなり黄葉しており,落葉もちらほら見られます。葉質はユクノキに比べ,薄っぺらい印象があり(秋だからでしょうか?),小葉の縁がなんとなく波打っているような気もいたします。フジキ(藤木)と名付けられたのも,な〜んとなく分かるようなイメージがあります。しかし,この時期採取した標本はあまり絵にはならないですね。小葉は葉軸にくっついている気は全く無く,バラバラ。ユクノキとの区別点でもある刺状の小托葉も,ほとんど脱落していました(載せられません)。
この写真は,まだ残暑の残る9月上旬,賀陽町の山林で見つけたフジキを現地で撮影したものです。
しっかりした緑色をしており,葉質も厚ぼったく見えますね。吉井町で葉質が薄っぺらく見えたのはやはり時期的なものでしょうか。しかし,葉形が丸みを帯び,縁が波打っているイメージは同様です。
またしても,現地の写真では刺状の小托葉が見えません。当時の標本を拡大したものがこの写真です(枠内は拡大)。こんなにしないと見えない同定ポイントって,なんだかいやですね(平凡社の図鑑の写真では,おっ立ってます。見てみてください)。
裏面は淡い緑色で,少々艶があるような気がします。
10年ぐらい前から,同属のユクノキに思い入れがあり,渓谷様の地形に出会うたび,気にかけていたものです。その後,県下の幾つかのフィールドを体験するにつれて,「なんだフジキっていうのがあるのか」,「これもフジキか」,「またフジキか」という事を繰り返したものです。この,ただフジキは,岡山県では北部中部(吉井町,総社市,成羽町,英田町)の山地に自生し,普通とされています(大久保,1999)。なるほど,ユクノキに比べ,出会う回数が格段に多いわけですが,それは,分布範囲の広さからくるものであり,生育量自体がそれほど普通であるようには思えません。
生育地は,岩の露出した急峻な谷や斜面下部であることがほとんどですが,そのような場所自体がありふれたものではないし,それに加え,単木状に生えている事がほとんどだからです。
この写真は,その良い例でしょうか。吉井町でのフジキの根本の状態を撮影したものです。谷地形の地で,両側は切り立った岩場になっています。少し斜面を登るともう尾根が近いような場所で,表面上,谷間の水量は豊富であるようには思えませんでした。
フジキの根は,岩間にしっかりと入り込んでおり,何度となく繰り返された崩落に耐えてきた様子がうかがえます。
ついでに樹肌についてですが,同じマメ科のネムノキと大差の無い印象を受けました。ネムノキが灰色がかっているのに対し,肌色っぽいかな?というぐらいの違いで,小さなブツブツはどちらも同じ。
この写真は,賀陽町でのフジキがまとまって生えている場所の様子を撮影したものです。当時は単木状に生えている個体しか見たことが無かったわけで,随分と興奮したように記憶しています。右側に3本,高木層までスッと伸びているのはケンポナシで,これとフジキがとんとんで優占種という感じ。他の上層木にはイタヤカエデ,チドリノキ,アワブキ等があったように思います。
一帯はアカマツ林が卓越する地域であり(今では随分枯れてしまってます。),落葉広葉樹林といえば山裾に少々見られる程度であったように思いますが,そのような中,このような変わった植生が見られたことを随分不思議に思ったものです。
この写真,山側から撮影しているのですが,背面は斜度30を越す急傾斜地で,そこから崩落した岩が一面に堆積している状態なのでしょう。いわゆる崖錘堆積地ですね。表層に土壌は一切見らず,崩落はそれほど古い話でもなかったのでしょう。その事は,高木の幹の細さからもうかがえます。
短期間で上層に達し,林冠を形成するには,それなりに水分を要すると思うのですが,この場所,表面上はとても乾燥しているように見えました。崖錘を取り払うと,下には肥えた水分の豊富な地盤があって,表面上何本もあって群落を形成してるように見えるフジキは,実は数本だったりするのかな?等とは考えすぎでしょうか。
「水谷渓谷の森林植生(豊原・波田,1989)」では,同属のユクノキが,崖錘上では少なく,比較的土壌の安定した場所で発達していることについて言及されています。フジキは岩の露出した谷や崖錘上で見られることから,両種は微妙な部分で住み分けているのかもしれません。
(写真&文章=岡山県環境保全事業団:難波靖司)