シデコブシ Magnolia stellata (モクレン科 モクレン属)
シデコブシは本州中部の東海地方を中心とした限られた範囲に分布する日本の固有種。湿原の周辺や渓流沿いなどに生育する。樹高は5m程度で本来は1本の幹で立ち上がるが、根際から多数の幹を出して灌木状になっているものもある。花は直径10cmほどで、白色から薄く紅色を帯びるものまで変異がある。系統的には、コブシとタムシバの交雑によって生じたものと考えられている。コブシはやや冷涼な地の谷沿い、タムシバはこれより温暖な地の尾根などの乾燥地に生育する種であり、シデコブシの誕生には、生育環境の異なった両種が近接して生育している環境が必要であったものと考えられる。
シデコブシは元々分布が限定されており、湿地周辺という限られた立地に生育する種であることもあって、生育基盤の脆弱な種である。開発なども加わって減少しつつある種であり、絶滅危急種に指定されている。愛知万博の計画地域(海上の森)では各地に小規模な湿地があり、その周辺などにシデコブシが生育しており、注目された。アイソザイムによる系統調査では、隣接した谷においても大きく異なった系統のシデコブシが生育していることが報告されている。湿地という環境は点々と不連続に存在しており、たとえ隣の谷であっても相互に遺伝子が交換されるチャンスが少ない立地であることがわかる。