ディスカリア・トウマトウ (マタゴウリィ) |
ニュージーランドの南島、マウントクック村でトレッキングを開始すると、棘だらけのものすごい低木がたくさん生育していた。遠くから見ると灰色がかって見えた潅木の正体がこのマタゴウリィであった。英語名では Wild Irishman と呼んだこともあったらしい。ニュージーランドの固有種であり、生育地は丘陵地帯の樹林下から樹林が発達していない岩石砂丘、河床まで多様であるが、マタゴウリィらしい棘だらけの状態は、砂礫の荒地における姿である。ハンノキなどと同様にフランキア(放線菌)と共生しており、荒地での生育を可能にしている。 棘は対生であるが、これは枝の変化したものであろう。葉はのっぺりとした長さ1〜2cmの倒卵形。おそらく、若くて勢いのある個体では葉がたくさん付き、年取って勢いが落ちてくると葉が少なくなって棘が目立つようになるのだと思う。樹高は数メートルといったところだが、小さいままのものも多い。春に白色の花を咲かせるとのことであったが、来訪した12月末では小さな果実をつけていた。 通常、有棘植物は大型草食獣の存在と関係が深いが、この植物の場合、少なくとも大型哺乳類のためではないのは明らかである。棘は見た目ほどは鋭いものではなく、あまり痛くない。林床に生育しているものでは短枝といった状況にしか過ぎない。おそらく、草食動物から身を守るための棘ではなく、過酷な環境の中での生育の姿なのであろう。この地域の年間降水量は4,100mmほど、毎月250mm以上であり、乾燥する月はない。海抜800mほどであるが、最寒月である7月の日平均気温は0℃よりも少し高い程度と思われる。過酷な環境と書いたものの、何が過酷なのかはわからない。 ニュージーランドの植物を見ていると、科の概念が覆ってしまう。この植物がクロウメモドキ科の植物とはとても思えないが、クロウメモドキは棘状の枝を付けたりする。そのように思えば、クロウメモドキ科の植物には結構個性的な種が多い。赤道を越えての変わり者家族である。 |