ヤクシマオナガカエデ Acer morifolium ムクロジ科 カエデ属

ヤクシマオナガカエデ
ヤクシマオナガカエデ
ヤクシマオナガカエデの幹岩の表面に発達するヤクシマオナガカエデの根系

 屋久島の林道を歩いていると、道路沿いの岩場にまるでアコウのような根を張っている樹木が生育していた。葉が高いところにしか付いていないので分かりにくかったが、葉が対生しており、落葉樹のようであった。いくつかの個体を観察できたが、どれも崖に張り付いたアコウのような根を見せており、常緑樹の低木の上に葉を展開しているので、下枝がなくて葉を手に取ることができなかった。

 ヤクシマオナガカエデは屋久島に自生する特産種で、葉の形と大きさはウリハダカエデによく似ている。葉の形は卵形から5裂するものまであり、勢い良く伸びる枝先では卵形の不分裂の葉となり、花の咲くような落ち着いた枝では5浅裂する葉が出る。

 屋久島のような常緑広葉樹林に生育する落葉広葉樹には、それなりの特技と特徴が必要であろう。うっそうと葉を茂らせている常緑広葉樹林に落葉広葉樹が進入して生長するためには、台風などで形成される裸地のようなギャップの形成が必要である。今回の観察例では、林道によって形成された岩盤の斜面であり、競合する樹木の少ない環境で風散布で進入し、岩の表面に根を発達させ、水分と光を確保しているものと考えた。

 屋久島はコナラなどのブナ科の樹木が分布しない特異な植生が発達しているが、その原因の一つにはヤクシカの存在があろう。広島の宮島もニホンジカが生息しているが、希にシイが生育するもののコナラやアベマキなどは生育していない。シカによって食べられてしまうためと思われる。宮島で意外なのは、秋になるとウリハダカエデが目立つことであり、シカには不嗜好植物なのであろう。屋久島のヤクシマオナガカエデと宮島のウリハダカエデの立場が類似しており、面白い。
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