ハルガイ Urtica cannibana (イラクサ科 イラクサ属)
 モンゴルの首都、ウランバートルの郊外Tuul川の岸辺。湿ったところを見たいとの要望を聞いていただき、立ち寄ってもらった。車から降りるとき、触ると痛い植物があるので気をつけなさいとの話があったそうである(小生は聞いていない)。河原は期待に反し、ヒツジに食べられてしまって刈り込まれた芝生のようで単調。一通り見て車に帰ろうとする頃、なんだか騒がしい。「痛い」との声。こいつに触ると痛いですよ!刈り込まれた芝生に所々にこんもりとした群落が点在している。近寄ってみるとヨモギに似ている。接写して拡大してみると、基部の膨らんだ棘毛が見え、イラクサの仲間であることがわかった。

 このイラクサは、モンゴルではHalgai ハルガイと呼ばれている。そのつもりで探してみると、ウランバートル市街の花壇などにも生育しており、結構普通に生育している植物であった。その後、植物園と看板が掛かっている場所に案内していただいたが、広大な荒地にハルガイがたくさん生育しており、かなりの頻度で刺されてしまった。花に気を取られると近くに生育しているハルガイにカメラを持つ手が触れてしまう。モンゴルの調査ではゴム手袋が必要である。

 ハルガイはモンゴル、中国、西シベリア、カザフスタン、東ヨーロッパなどに分布する多年草で、和名を付けるとすれば「モンゴルイラクサ」といった感じになるであろうか。分布を見れば、冷涼というより、放牧が盛んに行われる地域であろう。少し窪んだ場所に生育することが多いが、砂礫地や砂丘にも群生する。草丈は1mを超える。刈り取られた後の再生などでは、葉は柔らかそうで、ヨモギによく似ている。生長して種子を付ける状態では、葉は細く、堅い。刺毛は日本のイラクサに比べてかなり多く、葉の両面のみならず、葉柄や茎、果実にまでいやになるほど付けている。

 食事の時に聞いてみると、ハルガイは食べるという。もちろん若草の段階であり、柔らかいものを採取し、ゆでるのであろう。採るときに工夫がいる筈だが、ノウハウは聞けなかった。基本的に農耕の習慣がないモンゴルでは、貴重な野菜ということになる。とても痛いハルガイであるが、ウシとラクダは気にせずに食べるとのこと。ウシを放牧している地域ではハルガイの生育は気にならないほどであろうし、ヒツジばかりを放牧すると、この地域は危険ですよ!ということになる。この草に最初に出会ったのが、Tuul川の岸辺であり、ヒツジがたくさんいたので、ハルガイの群落が形成されていたということらしい。

 ハルガイをネットサーフィンしてみると、養毛剤の書き込みが多数ヒットする。モンゴルにはハルガイの浸出液で洗髪する習慣があり、モンゴル人には頭髪が豊かである人が多いからということらしいが、冷涼で降水量の少ないゴビ砂漠に隣接する地域。さてどれほどの回数洗髪するのか?さて、薬効の程はいかに。
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