イヌタヌキモ Utricularia australis R.Br.  (タヌキモ科 タヌキモ属
イヌタヌキモは全国の池や沼などに生育する水草。水の中に茎と葉を形成し、葉の一部に捕虫嚢が形成され、水中の動物プランクトンなどを捕まえて消化する食虫植物。水質的にはやや貧栄養なため池などで見られることが多い。食虫植物は本来動物を捕まえて栄養分を吸収するのであり、窒素・リンなどを吸収しにくい貧栄養な場所に適応したものである。イヌタヌキモは水中に浮遊しているので、水の入れ替わりが頻繁なため池や風が強い場所では生育が困難。特に開花した時に雨降ったり風が吹くと花茎は簡単に倒れてしまう。あまり水利用のない山間のため池などによく生育しているのは、水質とともに風の影響が少ないことも関係している。

 岡山県自然保護センターでは人工的に湿原を造成したが、その際、湿原の下部に造った池にイヌタヌキモを移殖した。次の年にはイヌタヌキモが一面に繁茂し、美しい花を咲かせて幻想的な景観となった。捕虫嚢は全て黒褐色となっており、プランクトンを捕まえていることが分かる。新しく作ったため池にミジンコなどの動物プランクトンが大繁殖し、これにともなってイヌタヌキモも大繁茂したものと思われる。このようなイヌタヌキモの繁茂も次の年には急激に個体数が減り、開花数も減少してしまった。今では花に出会うことも、運が良ければといった程度になってしまった。多くの生物相が定着し、特定の(たとえばミジンコ)生物が大繁殖することがなくなり、安定した生態系が形成されたのであろう。
イヌタヌキモ
イヌタヌキモの捕虫嚢イヌタヌキモの花(岡山県環境保全事業団:難波靖司氏提供)
一斉に咲いたイヌタヌキモの花(岡山県自然保護センター:1992年8月)プランクトンをたくさん捕まえた黒い捕虫嚢のイヌタヌキモ(岡山県自然保護センター:1992年8月)
種名一覧科名一覧雑学事典目次Top生物地球システム学科