食虫植物
湿原にはモセンゴケやミミカキグサ類などの食虫植物が生育している。この食虫植物について解説しておこう。
1.なぜ虫を捕まえるのか?
食虫植物は「虫を食べる植物」であるが、虫だけを食べてエネルギーを得て生育しているのではなく、基本的には光合成能力があり、自ら栄養分を合成して生育する能力がある。例えばモウセンゴケでは、虫を捕まえることができなくても生長して開花・結実するが、虫を捕まえることができるとたくさんの花を咲かせ、種子を付けることがわかっている。このように、食虫植物は虫を捕まえてエネルギー源としているのではなく、生育に必要な様々な物質を合成するために虫の体に含まれている栄養素を利用するのである。
2.食虫植物はどのような場所に生育しているのか?
モウセンゴケやミミカキグサ類などは、湿原によく生育している。食虫植物と呼ばれるグループは、湿原だけに生育しているのではなく、ウツボカズラの仲間は熱帯降雨林の樹皮に着生して生育しているし、サラセニアの仲間はオーストラリアの半砂漠に生育していたりする。コモウセンゴケは湿地にも生育するが、沖縄ではマツ林の林床に生育していたり、道路の切り通し法面にも群生していることがある。
3.根からではなく、葉から栄養分を吸収
このように見てくると、食虫植物の仲間の生育地は湿地であったり、樹上であったり、粘土の多い乾燥地であったりで多様である。共通点は根から栄養分を吸収しにくい場所であることである。水分はどうにか得ることができるものの、根からは栄養分が吸収できない環境で花を開き、種子を結実させて子孫を残すためには、窒素やリンなどの栄養分が必要である。このような栄養分がどこかにないか・・・?
窒素やリンの固まりが虫であり、この虫は生きている必要はない。最初はたまたま植物体の近くや上で昆虫が死んで分解され、豊かな栄養分が供給されたことがきっかけであったのかもしれない。
このように見てくると、湿原に生育する食虫植物たちは水が栄養分を含んでいないので、虫を捕まえるように進化したわけであるし、樹上に着生している食虫植物は根からでは栄養分を吸収できないので、落ちてくる昆虫をため込んで、栄養分にするわけであることが理解できよう。
4.ワナの種類
粘液型:イシモチソウ、モウセンゴケ、コモウセンゴケ、ナガバノモウセンゴケ、サスマタモウセンゴケ、ムシトリスミレ
捕虫嚢型:ミミカキグサ、ホザキノミミカキグサ、ムラサキミミカキグサ、イヌタヌキモ、コタヌキモ、.ヒメタヌキモ
壺型:サラセニア、ウツボカズラ
5.ちょっとしたお話と疑問
・モウセンゴケはナメクジに弱い・・・!
食虫植物に関する文献を読んでいると、栽培上の注意としてモウセンゴケなどの食虫植物はナメクジなどの食害を受けやすいので、注意するようにとの文章があった。虫をたべる植物が食べられる・・・? ほとんどの植物は、昆虫などに食べられにくいように何らかの有毒物質や忌避物質を含んでいる。虫さんに近寄って欲しい食虫植物としては、忌避物質を持つわけにはいかないのかもしれない。であるとすれば、腺毛の粘液をものともしないような動物、例えばナメクジには無抵抗で食べられてしまうことになる。このような事態を招かないためには、ナメクジやカタツムリの居ないような環境に生育する事以外になかろう。そういえば、年中湿っている湿原ではあるが、ナメクジやカタツムリは見たことがない。
・食虫植物は、本当に虫をエネルギー源にしていない?
モウセンゴケを栽培して毎日虫を葉に付けてやると、やがて葉は枯れてしまい、モウセンゴケの勢いは落ちてしまう。あまりにもたくさん虫をいただくのは、モウセンゴケにとっては迷惑であったようである。しかしながら、ものすごい量のプランクトンを捕まえてすべての捕虫嚢が真っ黒になってしまっているイヌタヌキモを眺めていると、どうなんだろう、必要な量の虫だけを捕まえているのだろうか? 捕まえすぎた虫はどうなているのだろうか? と思い始めた。ミミカキグサは半年も水底になるような場所にも生育できる種であるが、そのような場所の生育状態を見ると、葉がないにもかかわらず、花だけを咲かしている。もっとも、花が咲いていないと生育していても、確認のしようがないのだが。深い水の底、泥に埋もれて葉を出していない状態で、どうして花を咲かせる栄養分を蓄積できたのか・・・? ひょうっとしたら、こんな環境の中では純粋に食虫生物として生きていけるのか? と思ってしまう。
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