シナダレスズメガヤ Eragrostis curvula (イネ科 スズメガヤ属)



 シナダレスズメガヤは南アフリカ原産の多年生草本で、法面の緑化などの目的で導入された。葉は細くて(〜2mm)垂れ下がる。乾燥すると葉は上面を巻き込んで更に細くなる。初夏から盛夏にかけて花穂を形成する。花の色は灰緑色のものから掲載した紫色のものまであり、多様。染色体数にかなりの幅があり、多様な系統があるものと思われる。
 乾燥に強く、荒れ地の緑化などに用いられる。法面の緑化では、複数の種類を混合して播種することが普通であるが、オニウシノケグサと混合して播種されると、乾燥する痩悪地ではシナダレスズメガヤが、適潤地ではオニウシノケグサが優勢となる。シナダレスズメガヤは株状となって繁茂し、葉が垂れ下がるために株と株の間が無植生となる傾向が高い。したがって初期には良好な地被となるが、やがて株間が空き、斜面侵食が発生する可能性が指摘されている。
シナダレスズメガヤシナダレスズメガヤ
泣き濡れの愛の草
 シナダレスズメガヤに最初に出会ったのは、小学校の修学旅行であった。たしか比叡山のドライブウエーをバスで登っているとき、ガイドさんが「外をご覧ください・・・泣き濡れの愛の草です」と紹介してくれた。雨の中、他に何も見えなかった事もあってか、種子の価格も含めて熱心に説明してくれたのを憶えている。おそらく、日本に導入された直後であり、珍しかったのであろう。その後、この道にはいって、英名が Weeping love grass であることを知り、鮮やかに小学校の記憶がよみがえった。和名のシナダレスズメガヤよりもウイーピングラブグラスの方が、通りがよいかもしれない。

シナダレスズメガヤは山林火災の要因の一つ
 岡山県の沿岸域は山林火災多発地の1つである。山林火災の発生原因はタバコの投げ捨てなど、人為的なものである。山林火災の発生場所に行ってみると、シナダレスズメガヤの法面からの発生例がかなりあることに気づいた。燃えやすいのである。延焼中の火災現場で見ていると、シナダレスズメガヤは難なく発火する。葉が細いので、簡単に火がつくのである。シナダレスズメガヤの優勢な道路法面では、見る見るうちに火が広がり、火が走っていく。まるで導火線のようである。
 道路法面にシナダレスズメガヤを播種しないでくださいと、幾度か提案したことがあるが、なかなか実現されない。岡山の沿岸域のような乾燥した地域の南斜面では、シナダレスズメガヤとオニウシノケグサを混播すると、必ずシナダレスズメガヤが優勢になってしまう。オニウシノケグサだけにすると、緑化は成功しない。このような事情から結果的にはシナダレスズメガヤが現在も広くのさばっていることになっている。難しいものである。

河川に侵出するシナダレスズメガヤ
 いつの頃からか記憶は定かでないが、シナダレスズメガヤが河川に侵出しはじめました。乾燥に強いという性質を活かして、礫質の中流域の河原に定着し、群落を形成し始めたのです。礫質の河原は乾燥するので従来は、生育する植物はほとんど無く、洪水のたびに河原の土砂は流されて移動していたのですが、シナダレスズメガヤが生育してしっかりと土砂を止めてしまうので、河原の性状が変わりつつあります。このままシナダレスズメガヤが繁茂すると、日本の河川の性質が変わってしまうでしょう。


種名一覧にもどる / 科名一覧にもどる / 雑学目次にもどる / HPにもどる