連作障害
同じ作物を同じ場所で連作すると、多くの場合作物に病気や栄養障害などの障害が発生する。これを「連作障害」という。新たに開墾して作物を作る場合には、その作物に対する病害虫がほとんどいないので、作物はその土地の能力に対応して生長するが、同じ場所で連作を続けると、やがてその作物をターゲットとする病害虫が侵入し、増殖してくる。特定の栄養素を要求する作物であれば、連作によってその栄養素は欠乏するであろうし、不要物質は蓄積することになる。このような連作障害は、人間の側から見れば、困ったことであるが、その作物をターゲットにする生き物の側から見れば、食料が毎年大量に栽培される、またとない立地であるのだから、定着し大量発生するのは当然のことである。
連作障害は多くの植物で観察される。というより、樹木を含むほとんどの植物が連作を嫌うといって良い。少し具体例を述べてみよう。
トマト
トマトは連作を嫌う代表的作物の1つである。昔、借家の庭先にトマトを作ったことがある。あれ放題の庭であり、雑草が点々と生えている程度の荒れ地といって良い程度のものであったのだが、見事なトマトが稔った。近所の人たちは、さすが「生物の先生だけのことはある」とほめてくれたわけであるが、年々トマトは貧弱になり、近所と同じ程度の家庭菜園になってしまった。
根を調べてみるとわかるのであるが、トマトを連作すると根にたくさんの瘤ができるようになる。その原因については詳しくは知らないが、菌類の仕業ではないかと思う。根が病気にかかってしまっては、十分な収穫ができるわけはない。このような病害に対して耐病性の品種が開発され、高い苗では耐病性の台においしい果実のなる品種を接ぎ木しているのであるが、やはりある程度は病害が発生する。ちなみに根瘤病はトマトだけではなく、キャベツやキュウリなど、多くの作物で発生する。
トマトをビニールハウスなどで連作する場合には、土壌を殺菌する。このような作業なくしては、トマトの連作は営業的には困難である。近年は連作障害を防ぐために土壌を使わず、肥料の入った水だけによる水耕栽培も行われるようになってきた。
ダイコン
ダイコンにも連作障害が発生する。現在では「刺身のつま」などに一年中ダイコンが付いてくる。ダイコンは本来は秋から春にかけての作物であるので、夏ダイコンは高冷地で集約的に栽培されることが多い。このような夏ダイコンの産地は、点々と場所を変えてきた。同じ場所で連作すると障害が発生し、ダイコンの中かが黒くなったり、赤くなったりするのである。真っ白なダイコンが黒ずんでいては食欲もわかないであろう。
かつては放牧場などに利用されていた高原地帯で、これら夏野菜が集約的に栽培されてきた。しかしながら10年もたつと病害が顕著となり、畑を放棄せざるを得ない状況となる。次々と新たな畑を開墾することができなければ、中止せざるを得ない。1つの作物を広い面積で集約的に栽培すると、選果場や出荷体制の整備、ブランドイメージの確立などには有利であるが、問題も大きい。
岡山県では県北の蒜山地方が夏ダイコンの生産地として有名である。ここでは何十年も大根の生産が続けられているが、このような連作が可能であるのは耕作可能な土地が広大であるからである。もっとも、ダイコンは連作障害の出にくい方の作物であるという。
ポプラ
岡山県の県北、蒜山には酪農大学校があり、その放牧場にポプラ並木がある。ポプラ並木は牧場と草をはむジャージー牛の背景として、北海道を連想させてそれなりにマッチしたものであった。このポプラの樹勢が衰え、歯抜け状態になってしまった。ポプラ並木を再生すべく、枯れた場所にポプラの若木を植栽したのであるが、これらが全滅してしまった。
若木が枯死してしまったのは、土壌中にポプラをターゲットにする菌類が多量に存在していたからである。考えてみれば、親木が死んでしまう場所に幼い子供を植えても育つはずがない。大量の病害虫が待ちかまえているところに抵抗力のない赤ちゃんを植えたことになる。
このようなことから、ポプラの植栽による並木の再生は断念され、並木の樹種はシラカンバに変更された。
モモ
岡山の名産品の1つに白桃がある。このモモにも連作障害がある。モモにも寿命があり、古木になると生産性が低くなる。そこで若木に植え替える必要が生じるのであるが、ポプラと同様に古木の生育していた跡に若木を植えることができない。そのために、モモ畑は新しく開墾せざるを得ず、産地は移動することになる。
このモモの連作障害は、有機質を多量に土壌に投入することによって、軽減あるいは防止することが可能であるという。このことは連作障害のメカニズムを理解することに1つの示唆を与えている。土壌中に有機質が多量にあれば、多様な生物が生育・生息しており、単一の病害虫の大発生を防ぐことができるのではなかろうか、と思う。
木の戦略と草の戦略
このように見てくると、単一の作物を大量に栽培すると連作障害が発生するのは当たり前であり、樹木ですらタイムスパンは長いものの、同様な障害が発生する。土壌の中では、地上部と同様に植物の根を巡って害虫や菌類、バクテリアなどが生活している状況を実感する。植物は基本的に芽生えると移動できないので、このような土壌の世界における生物的環境は、地上部とともに重大な問題である。
土壌中に病害虫が増加すると、その場所から逃げる戦略がある。蓄積してきた有用物質を可能な限り種子に詰め込んで、新天地に移動する。このような引っ越しを毎年行う植物は、一年生草本である。病虫害防止のための設備投資にエネルギー投入するよりも、新天地への移動を選択していると言えよう。しかしながら、散布された種子は必ず病原菌の居ない新天地に到達できるとは限らない。
頻繁に引っ越しする一年生草本と対局にあるのが、極相林構成種であると言えるであろう。同じ場所に長期間生育し、子孫も同じ場所に生育するタイプの樹木は、病害虫に対して強い抵抗性を持っていなくてはならない。特に種子や発芽直後の抵抗力の低い時期における土壌生物の環境は大切である。自然林の場合、土壌中に生物が居ないことはあり得ない。この多様な生物群に対して、強い抵抗力を持っているか、あるいはこれらの生物群がその植物の味方であり、親衛隊としてその植物を守ってくれるような土壌生物環境である必要がある。
どうすれば、連作障害を防げるか?
1.土壌の殺菌
すぐさま思いつく方策としては、土壌の殺菌がある。薬剤による土壌殺菌はかなり以前から実施されている。薬剤を用いたくないのは誰しもそうであるとおもうのだが・・・・ この他、土壌表面をビニールマルチで被覆しておくと、太陽の直射で地温が上昇し、土壌中の菌類が死滅してしまう、という方法も広く実施されている。これらの方法は有用な土壌生物も減少させてしまうことになってしまうし、無菌状態の土壌の中では、かえって特定の生物が大繁殖してしまう可能性もあるであろう。
2.コンパニオンプランツの植栽
スイカやナス、トマトなどは連作障害が出やすい作物である。逆にネギ、タマネギやキク科の作物は連作障害が出にくい。臭い植物が連作障害が出にくいように思える。これらの植物は、自ら病害虫などの忌避物質を生産してばらまいていると解釈してはどうだろうか。
連作障害の出やすい作物のそばに、マリーゴールドやネギを植えておくと連作障害が出にくいという。これらの植物が生産する忌避物質あるいは防御物質によって、トマトなどの根にアタックする病害虫が減少するためと解釈される。モザイク状に様々な作物を栽培する家庭菜園では、もっとも簡単で、安全な方法である。
3.水耕栽培
根圏に多様な生物が生息する事に関しては、土を使用する限り、完全に防止することは困難であろう。そこで、土壌を使わず、栄養分を含ませた水を循環させることによって栽培する水耕栽培も採用されている。連作障害の発生しやすいイチゴ栽培などもそのような方法で栽培されつつあり、すでに土に植栽されたイチゴ栽培は過去のものとなりつつある。
4.有機物の投入
土壌中に大量の有機物を施用すると、連作障害を克服できることはモモの例で示した。土壌中に多様な生物が生育・生息し、単一の病害虫が大発生する状態を防ごうというわけである。土が豊かで調和がとれていれば、様々な生物が相互に関連しつつ生活し、単一の生物の大発生を招きにくい。
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