身近な生物学U 春2学期
2-7.生態系の物質循環U
     生態系における物質循環では、炭素の循環は大きく扱われてこなかった。しかしながら、化石燃料の消費による地球温暖化現在の地球環境において最重要課題であるといえよう。炭素と炭素を中心として構成される有機物の循環について学ぶ。
    (1)有機物の循環
       窒素やリンなどの循環は、基本的には有機物の中に含まれているので、全体的には有機物の循環として理解される必要がある。有機物は生産者である緑色植物に源を発し、動物や菌類などの形態へと変化しつつ生物群集の中を循環している。有機物の分解は細菌や菌類などの生物現象であり、これらの活動は温度や酸素の有無などの環境によって支配されている。

       有機物の分解が停滞すると、栄養物質は分解されずに貯蔵され、生態系の循環から失われることになる。泥炭の形成が典型的な例であり、栄養分が含まれているにもかかわらず、分解しないので栄養分が放出さっれす、再び利用されて新たな生命を構成ることができなくなってしまう。

      @温度要因
         温度が低いと生物活動は低下し、有機物の分解速度は低下する。冷涼な地域では分解量が有機物の生産量よりも下回る傾向が高く、森林の地表面には厚く腐植土が形成される事が多い。

      A酸素
         土壌中に水が多量に含有されており、移動しにくい場合には無酸素状態になることがある。このような場合には好気性細菌などの活動が押さえられ、有機物の分解が抑制される。このような例の典型的な事例は湿原であり、典型的な例ではほとんどが有機物から構成されている泥炭が形成される。

      BpH
         中性付近や弱アルカリ性の環境では生物活動は活発に行われるが、酸性の環境では生物が活動しにくい。有機物が分解する過程においては、酸が形成される。森林土壌などでは複雑な組成を持つ有機酸(腐植酸)が形成されるので土壌は酸性化する。湿原の泥炭形成過程でも同様な物質が形成され、場所によってはpH3台に低下することもある。

         これらの環境条件の他、植物から供給される有機物の化学組成によっても分解速度は大きく影響される。例えばアカマツなどの針葉樹落葉は樹脂を含んでおり、分解しにくい。地表に供給された有機物が分解されないと、物質循環の停滞が生じる。このような有機物が大量に蓄積された場所は、多量に栄養物質を保持してはいるものの、実際に生育している植物には栄養物質は供給されず、新たな栄養物が域外から供給されない限り、貧栄養な状態となってしまうのである。

    (2)化石燃料の消費による炭素循環-地球温暖化-

      地表に到達した太陽エネルギーは、再び宇宙空間に放出されることになる。地表面に到達したエネルギー量と宇宙空間に放出されるエネルギー量が等しければ、地表面は暖められることなく、厳しい氷点下の環境であったはずである。現実には、宇宙空間に放出されるべきエネルギーの一部はCO2、NOx、CH4、H2Oなどが吸収することによって宇宙空間に放出されることを妨げており、これを温室効果という。

     太陽から地表面に到達する光エネルギーは地表面で吸収され、熱となる。熱に変換されたエネルギーは赤外線として宇宙空間に放出されることになるが、これらの一部は大気中の二酸化炭素などに吸収され、再度地球表面に向かっても放出されることになる結果、温室効果ガスの存在によって地表面は温暖な状態に保たれている。

      現在問題となっている地球温暖化は、地表面の反射特性によって大きな影響をうけている。地球全体が雲で覆われているとしたら、ほとんどの入射エネルギーは反射されてしまうので、地表面にはエネルギーは到達せず、地球表面は寒冷な環境となる。

     同様に、地表面が氷や雪で覆われていると入射エネルギーは反射してしまい、日照があっても氷が溶けることはない。地球が広く氷河に覆われていた氷河時代は入射エネルギーが反射してしまうという寒冷のサイクルが回転し、氷河期が継続することになる。氷河期が終了するためには、きっかけとなる何らかのイベントが必要であった。

     同様に、一端地球温暖化が進行し始めると
    @気温の上昇による二酸化炭素の発生増大:気温が上昇すると生物の活性が高まり、有機物の分解速度は上昇する。このために地表面に堆積していた有機物や土壌中の有機物が分解し、二酸化炭素の発生速度が上昇し、より地球温暖化を促進する可能性がある。

    A気温の上昇によるメタンの発生増大:湿原や沼沢地などの過湿地では、メタンガスの発生量が増大し、更なる温暖化を促進する可能性がある。

    B水温の上昇に伴う水界への二酸化炭素溶存量の減少:水温が上昇すると気体の溶解度は低下する。

    C気温の上昇による水分の蒸発:気温が上昇すると大気中に存在できる水蒸気の量が上昇する。水蒸気も温暖化ガスであり、大きな影響を与える可能性がある。

     これらの現象は地球温暖化促進サイクルであり、一端始まると地球温暖化が進行することになる。

     地球温暖化のメカニズムに関しては、人類の化石燃料消費により大気中の二酸化炭素が増加し、引き起こされたものであるとする説が主流であるが、太陽活動の活発化などがきっかけで気温上昇が起こり、これによって有機物の分解速度などが上昇した結果、空気中の二酸化炭素濃度が上昇したとする説がある。

     さて、原因はどうとあれ、地球温暖化の歯車が回り始めてしまったようである。我々としては、@今後どのようになるかを予測する。Aどのような対策を行うべきか、を考える必要がある。

    @温暖化が進行するとどのような影響があるか
      ・植物への影響
      ・昆虫など変温動物への影響
      ・哺乳類など恒温動物への影響
      ・気象への影響

    Aどのような対策を行うべきか


読みきり囲み記事
     沼沢地など、酸素が不足しやすい過湿地ではメタンガスが発生する。その傾向は温度が高いほど顕著である。ところで、水田は人為的に管理された沼沢地であり、大量のメタンガスを発生させる場所となっている。温暖化が進行して気温が上昇すると、水田からのメタンガスの発生量も増大することになる。

     牛などの偶蹄類は4つの胃を持ち、反芻する。胃袋の中で発酵させることによって、セルロースなどの繊維を分解し、栄養価の高い物質へと変化させ、消化吸収を行っている。この過程でメタン発酵が起こり、メタンガスがゲップとして排出される。また、大腸における発酵によってもメタンガスが発生する。このゲップとオナラも無視できない量の温室効果ガスを発生させている。。
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