身近な生物学U 春2学期
2-6.生態系の物質循環T
  物質循環は、地球生態系の根幹であり、生態系の成り立ちと性質に大きく関係している。物質循環のキーとなる物質は、植物の主要3栄養元素であるN,P,Kであり、これと共に炭素の循環も地球温暖化に大きく関連しており、地球の将来に大きな影響があり、注目せざるを得ない。
    (1).窒素
      a.チッ素固定を行う生物
       大気中に80%程度も含まれる豊富な物質であるが、窒素ガス(N2)は非常に安定性が高く、簡単には生物体構成物質として取り込むことができない。次に述べる特殊な生物のみが大気中の窒素ガスを固定することができる。
      • アゾトバクター Azotobacter:好気性の細菌。有機物をエネルギー源とし、窒素ガスを固定する。
      • クロストリジュウム Clostridium:3〜4μの嫌気性細菌、繊毛を持っており運動する。耐酸性が強く、ほとんどあらゆる土壌に分布しているが、チッ素固定能力はアゾトバクターよりも弱い。
      • 根粒バクテリア Rhizobium:マメ科植物と共生する細菌。根に形成される根粒中で増殖し、根粒が成熟すると消化され、マメ科植物に利用される。マメ科植物が荒れ地に生育が可能であること、豆類が高蛋白食品であることなどは、この根粒バクテリアとの共生によるものである。
      • 藻の一部 Anabena, Nostocなど:比較的貧栄養な環境に生育する藍藻植物の中には、空中チッ素固定能力があることが知られている。水田等の水域における富栄養化に関連していると考えられる。
      • 放線菌(フランキア):ハンノキ属、モクマモウ属、イチョウ属グミ属ヤマモモ属などの植物はフランキアと共生関係にあり、空中チッ素を固定している。特にハンノキ属植物に関しては、その高いチッ素固定能力に着目され、治山回復などで植栽されている(オオバヤシャブシヒメヤシャブシなど)。

       高等植物は、単独ではチッ素固定ができない。チッ素固定にはエネルギーが必要であり、無意味なチッ素固定は行わない。アゾトバクターやクロストリジュウムなどの自由生活細菌は自らの成長・繁殖に利用するために必要なチッ素を固定しているわけである。例えば、土壌にチッ素などを含んでいない炭素源を与えると、これを利用・消費してバクテリアが増殖する結果、有機物総量は減少するが、チッ素の絶対量は次第に増加する。

       このような生物的チッ素固定の他、自然的な窒素源の供給としては、火山活動によるアンモニアガスの放出、落雷や光化学反応によるNOxの生成が想定される。
       また、人類の活動がチッ素源の増加に大きく影響を与えていることも知られている。通常のたき火程度の温度では、チッ素ガスと酸素ガスは反応しないが、例えばエンジン内部のような高温・高圧の元では反応して酸化窒素・亜酸化窒素が形成される(これらを総称してNOxという)。温度が高いほどNOxは形成されやすく、ガソリンエンジンよりもディーゼルエンジンの方が、温度が高いので形成される率が高くなる。高出力のエンジン(燃料消費量が少ない→二酸化炭素発生量が少ない)ほど、あるいはダイオキシンの発生しない高温焼却炉ほど、NOxに関しては問題が大きいことになる(ジレンマである)。

      b.チッ素の変換
        植物は一般にアンモニウム塩や硝酸塩などの無機チッ素化合物を吸収し、硝酸塩も一旦アンモニウム塩まで還元し、アミノ酸の合成に利用している
       生物体を構成していたタンパク質が、嫌気的条件で分解される場合にはアンモニア態チッ素が放出され、好気的条件で分解される場合には、亜硝酸態、あるいは硝酸態チッ素として放出されることになる。土壌中に無機態のチッ素が蓄積する場合には、最も安定な(酸化された)硝酸態チッ素として存在する。植物が吸収した硝酸塩は次のような経過をたどってタンパク質に合成される。

      硝酸塩→亜硝酸塩→アンモニア→アミノ酸→タンパク質

      c.脱窒
       aで述べたように、空中窒素固定細菌などが活躍すれば、次第に富栄養となる。このような栄養分の遷移が土壌中で発生すれば、地上部の生物体量(バイオマス)が増加することになり、森が発達して植生遷移として表されることになる。一方、チッ素循環系への収入ばかりでは、常に富栄養な環境のみしか存在しないことになる。循環系に取り込まれたチッ素の一部は、アンモニアガスとして空中に放出され、あるいは土壌中の嫌気的部位において窒素ガスへと変換され、窒素循環系から失われる。

      b.リンの循環
       リンは、生物体の構成物質として重要であるが、基本的には岩石の風化による供給が主である。造岩鉱物が風化され、その構成物質である P、K、Ca、Mg などが溶出し、植物が利用可能な状態になる。このような岩石の風化および植物体への吸収は、菌根菌の働きが大きく貢献している。植物に吸収されたこれら栄養分は植物から動物へと移行し、生態系中を循環するが、長期的には水の流れにしたがって川から海へと流亡する。

       川や海から再び陸上へもどる経路は2つある。1つは海底などに堆積した泥土が岩石となり、やがて地殻変動によって陸になり、この堆積岩が再び風化するという、とてつもながい地質学的年代における循環である。

       もう一つは、水界に到達したリンが

       植物プランクトン→動物プランクトン→小型動物→魚→水鳥 

       という食物連鎖により、陸上へともたらされるものである。カゲロウ類などの水生昆虫が羽化し、陸上に飛来する場合には、水界から陸上へ相当量のリンを回帰させることになるし、水鳥の糞が堆積したグアノやこれが変性したリン鉱石なども、基本的には動物によるリンの陸上への回帰である。水生昆虫の豊かな水域は、これら動物によって栄養塩類が除去され、水質浄化に関しても、良好な生態系であるといえよう。サケの母川回帰は、大量のリンを陸上生態系に回帰させていることが知られている。

      c.カリの循環
       カリは細胞内液に含まれ、浸透圧の調整に関与している。血液を持たない植物ではNaは重要な物質ではなく、カリが重要である。カリもリンと同様に、基本的には岩石の風化によって生態系に持ち込まれるが、植物体内に多く含まれることから、植物あるいは植物の灰などで生態系内を循環することになる要素が大きい。

       河川が流下するにつれて植物にとって必要の無いNaの含有量は減少せず、かえって濃縮されて増加する傾向があるが、Kは水草などによって吸収されて減少する。これらの水中の植物性生物が上位の消費者に食べられることによって陸上生態系にもたらされ、循環する。
  • チッ素(N)循環:チッ素はアミノ酸の構成成分として重要である。チッ素が不足すると植物はタンパク質含有量が低下し、酵素反応などにも障害が発生する。
  • リン(P)の循環:リンはDNA等のヌクレオチドおよび細胞膜を構成するリン脂質の構成成分として重要である
  • カリ(K)の循環:細胞内に集積され、浸透圧の調整に貢献する。
  • Ca,Mgの循環:細胞内の浸透圧調整および酵素などの構成成分として重要である。

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