U 植生遷移 Succession
 (3)生物体量(バイオマス)の増大と純生産量の減少
     群落が発達すると葉量は増大し、1次生産量は増大するものの、個葉の光合成能率は低下し、呼吸量が増大して純生産量は小さくなる。純生産量:すなわち純利益が少なくなるということは、群落として生長しにくくなることを意味している。
     遷移が進行し、森林が発達すると生物体量(バイオマス)は増加する。森林の高さ(樹高)は土壌の生産性や風などの環境条件によって支配されていると考えられており、無限に高くなることはない。樹林の高さに限界があるとすれば、一定の高さに達した以降の森林のバイオマスの増加は、樹木の肥大成長に依存する事になる。
     植生遷移が進行し、森林が発達してくるとバイオマスは増加するが、この増加は幹などの増大が主である。幹は非生産器官であるので、成熟した樹高の高い森林ほど非生産器官の量が大きな割合を占めることになる。樹木の幹の中心部は死んだ組織であり、呼吸によりエネルギーを消費することはないが、形成層を中心とした分裂組織や葉で生産した光合成産物の通路である師部や樹皮などでは活発な生理的活動が行われており、エネルギーを消費する。
     これらの事から、植物の高さが増大するにつれ、呼吸量が増大することになる。このために遷移に伴って総生産量が増大するものの、呼吸量が増大し、純生産量が少なくなる。純生産量が0に近くなった森林は、生長と枯死が釣り合った状態であり、個々の個体としては生長したり枯死したりするが、群落としては生長もしないし、衰退もしない。このような植生が極相である。

    【極相モザイク説】
     理論的には純生産量がゼロになって生長も衰退もない状態が極相植生であるが、個々の植物個体は生長し続けなければ個体は存続できない。水の通導組織である導管は死んだ組織であるが、永遠に機能し続けることはできない。導管や仮導管などの通同組織の寿命は、早いものでは数年、長いものでも10年程度で閉塞され、使われなくなる。したがって、必ず毎年樹木は肥大し、新しい枝を作る必要がある。個々の個体としては生長し続ける必要があり、一部の樹木が枯死するので群落としては生長していない状況が極相植生であることになる。
     このように見てくると、極相植生と呼ばれるものの中でも大木が枯損したり、ぽっかりと空いた空間に若い樹木が勢いよく生育している状態が存在することになるはずである。すべての樹木が大きく生長し、これ以上生長しにくい状態の森林を過塾林と呼んだりする。
     1つの極相林と呼ばれるものの中にも、若木によって回復しつつある「建設相」、大きく生長した樹木によって占められている「成熟相」、大きく育った樹木の一部が枯死している「衰退相」などの様々な状態がモザイク状に存在しており、部分的には発達しつつあり、また部分的には衰退しつつある状況で極相林が維持されていることが実体であるはず。このように、極相植生も動的であるという観点から極相植生の維持機構を説明したのが極相モザイク説である。

    参考:「極相林は二酸化炭素同化能力が弱いので、伐った方がよい」との意見は本当か?

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