U 植生遷移 Succession
3.遷移のメカニズム
(1)繁殖子の侵入と定着 −森林攪乱による初期段階−
     植生の遷移において、植物や動物がどのように侵入し定着するのかは、当然大きな影響を与える。その影響は、植生遷移の初期段階において特に大きいであろう。溶岩上の乾性遷移においては、胞子などの微少な繁殖子によって侵入するので散布の可能性は高く、その後の劣悪な環境において生育できるかどうかが大きなポイントである。しかしながら、森林が伐採された後に進行する二次遷移では、植物の侵入のメカニズムがその後の植生遷移に大きな影響を与えることになる。

    a.埋土種子集団からの再生
     散布された種子は、比較的短期間に発芽するものと、何十年にもわたって休眠し、好適な環境になってはじめて発芽するものがある。このような休眠・非休眠は種によって固定されているものもあり、何らかの環境条件によって休眠が導入される場合もある。
     健全な森林では、種子が散布されても生長し、生残できる可能性はきわめて少ない。散布されても休眠し、台風による倒木や森林火災・伐採などの森林破壊のチャンスに芽生え、急速に生長しようという戦略である。このような戦略をとる植物は、散布された種子の一部は比較的短期間に発芽するものの、残りは土壌中で休眠して「埋土種子集団」:シードバンクを形成する。埋土種子は伐採などによって地表面の温度変化が大きくなることなどの刺激によって目覚め、発芽する。埋土種子となる典型的な植物には次のようなものがあり、伐採や山林火災の跡地でいち早く発芽して初期段階の森林の構成種となる。

    ハギ類マルバハギヤマハギなどのハギ類は硬い種皮を持ち、なかなか吸水しにくく休眠しやすい。奈良の若草山は毎年火入れされる山として有名である。火入れによってハギ類の種子は休眠が打破され、芽生えてくるのでハギが群生する萩山としても有名である。ハギ類は、森林土壌を散布するとよく発芽してくる植物としても有名である。

    サンショウ類:イヌザンショウカラスザンショウなどのミカン科の樹木は埋土種子を形成し、伐採後などでいち早く芽生え、生長してくる。これらの植物は鋭い棘を備えており、大型ほ乳類に摂食されることに対して抵抗している。伐採跡に生育する特徴的な植物群の1つである。

    ウルシ類ヤマウルシヤマハゼハゼノキヌルデなどのウルシ科植物も、伐採後の植生として特徴的なものである。ハゼノキの種子からはロウソクに使用する油脂が採取したことでもわかるように、これらの植物の種子表面にはロウが分泌されており、吸水しにくい仕組みとなっている。

    クズクズは森林を伐採すると発芽してくる厄介者であるが、2種類の種子を生産することがわかっている。大きな種子は、休眠せずに発芽するが、小型の種子は長期間にわたって休眠し、森林が破壊されるのを待っている。すでに植生がある程度存在する場所には大きな種子で対応し、森林が破壊されて競争相手が少ないと予想される場合には、小さな種子で対応している。見事な戦略であり、林業には手強い相手である。

     その他、コシアブラタカノツメアカメガシワホオノキなどの種子も休眠し、森林破壊によって発芽してくる。アカメガシワの種子は、加熱すると発芽率が高まる。東北地方の山林火災跡地では、ツユクサが発芽してくることが知られている。これも長期にわたって待機しているのであろう。

     これらの内、樹木の樹形には共通性が見られる。幹は細くて立ち上がり、上方にぽっかりと開いた空に向かって伸びて葉を展開し、上からの光を精一杯受けとめる葉の形である。大きな複葉を持つものが多い。当然の事ながら、これらの植物は、比較的短期間に生長し、開花結実して種子を散布する。個体としては短命なものが多い。

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