U 植生遷移 Succession
     樹木の種子寿命は短いものが多い(参照:埋土種子の寿命。アベマキ・コナラなどは全く休眠せず、秋に地面に落ちると、即座に発芽する。アラカシやシイ(スダジイツブラジイなどの極相林構成種の多くは一年以内に発芽能力を失ってしまう。樹木そのものの寿命が長い場合、種子寿命を長く設計する必要性は低い。
     一方、長寿命であり、埋土種子集団を形成する樹木は伐採や山林火災跡地などでいち早く生長し、比較的早期に開花・結実し、周辺の樹木が生長してくる前に再び埋土種子集団を形成する戦略であるといえよう。
     もちろん、これらの他に、短命な種子であって、頻繁に散布を行い、森林破壊が発生した場合にのみ侵入が成功することをもくろむ植物もある。


    b.地下部からの再生
     森林が伐採されると切り株から萌芽再生してくる植物が多数存在することはよく知られている。しかしながら、地下に残った根や地下茎から再生してくる植物に関しては、知見の蓄積が不十分である。いくつかの事例を示しておく。

    タラノキタラノキは伐採跡にまず再生してくる植物として有名である。しかしながら、地上部が伐採されたり、何らかの原因により枯死したりすると、残った地下部の根の一部から茎が形成される。したがって、1本の幹が伐採されると、何十本・何百本ものタラノキが発生してくることもある。伐採跡にいち早く再生し始める小さなタラノキを種子発芽からと誤認されていたが、種子からの再生もあるのであろうが、ほとんどは「根発芽」によると考えて大きな誤りはなさそうである。

    ヌルデヌルデもタラノキと同様に、根発芽の能力を持っている。山林火災の後には地表の土壌が流されやすく、根が浅い植物の根系は地表に露出しやすくなる。そのような場所ではヌルデは根から発芽してくる。

    アカメガシワアカメガシワも埋土種子となる植物であるが、根からも再生してくる。幹を伐採すると多数の幹ができて再生してくる。

     この他、クサギアキニレヤマナラシナナミノキなども根から発芽し、再生してくることが観察されている。伐採などの森林攪乱を待って再生してくる植物のかなりは、埋土種子集団を形成して長期間にわたって攪乱を待つだけではなく、根からの発芽の能力も兼ね備えている可能性がある。

    c.切り株からの再生
     切り株から再生する「萌芽再生」を行う能力を持っている樹木は多い。樹木は地下に大量の根系を発達させており、その中には貯蔵物質もある。これらを元手に、根際から新たな芽を出すことは、大量の貯蔵物質とともにすでに発達させていた残存の根系を利用できる点で、急速な回復・生長を実現することができる。
     クヌギ・コナラ型の定期的に伐採される森林は、このような萌芽再生能力の高い樹木によって構成されている。これら二次林を構成する植物の萌芽再生に関しては、幹を伐採すれば、萌芽してくるという簡単なものではない。これらの樹木の萌芽は、不定芽と呼ばれるものからの再生である。元々ちゃんとした芽として準備されていたものではなく、伐採されたことがきっかけとなって新たに芽が作られるわけである。その作られ安さが萌芽再生能力の高さとなるわけであるが、萌芽再生能力が高いとされるコナラでも、伐採されずに数十年も経過すると萌芽再生能力は低下する。10〜20年の間隔で伐採され続けなければ、萌芽能力が低下するのである。

    d.飛来種子からの侵入
     森林が攪乱されると、種子が風などによって運ばれ、侵入してくる植物がある。しかし、日本在来の植物にはそのような植物は少なく、太古の時代から、森林破壊はあまり高い頻度ではなかったことがわかる。亜高山帯では、ヤナギランが伐採跡にまず風に乗って飛来することが知られている。低山や山地では、ベニバナボロギクダンドボロギクがまず風によって侵入してくるが、両種とも帰化植物である。日本では、ヤマナラシが該当するかもしれない。

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