U 植生遷移 Succession
(2)光合成の特性
 植物によって光をどのように利用するかの戦略は異なっている。光合成の速度は光が強くなってくると、その量に比例しない。二酸化炭素の吸収が追いつかないからである。そのために強光域では光合成速度は二酸化炭素吸収量に支配され、一定となる(光飽和)が、さらに光が強くなると阻害が発生する。材料がないのに光だけ当たるのは、かえって有害なのである。このような状況の中、植物は様々な光に対する対応を行っている。
 陽葉と陰葉

(3)葉量の増加と水分消費
 遷移にともなって葉量が増加する。植物の種類が同一であるとすれば、葉量の増加は群落としての水分消費量増大を引き起こすことになる。地域に供給される降水量は変化しないので、植物の種類は水分消費量の少ないタイプのものに変化せざるを得ない。コナラなどの落葉広葉樹林への常緑樹の侵入、そしてカシ林への遷移は、このような水分消費量の観点からも説明が可能である。

(4)土壌の発達
 植生遷移に伴って、土壌も発達する。地表に供給される落葉・落枝、地中の根の腐朽などによって、土壌には絶え間なく有機物が供給される。有機物は土壌動物の食料となり消費されるが、有機物が分解していく過程の中で、形成された難分解性の腐植物質が土壌中に蓄積されることになる。このような土壌有機物は土壌の物理性を改善し、保水力を高めることになる。また、土壌動物の活動による土壌の「耕し効果」も土壌の改善に大きく貢献している。
 このように土壌は遷移にともなって次第に発達して行くが、その速度は大変ゆっくりとしたものであり、二次林などにおける急速な遷移においては、地上部の発達に土壌の発達が追いついていない場合も多い。

(5)遷移と幹比重
 幹を構成する材の比重は遷移と密接な関係があることが指摘されている。単純に考えれば、比重の大きな材は丈夫であり、大量の葉を支えることができる。一方、比重の大きな材は細胞の大きさと関連しており、多数の小さな細胞作るには大きなエネルギーが必要となり、葉への投資は相対的に減少させざるを得ない。樹木は、この相反した戦略をどのように採用しているのであろうか。

a.全体的傾向
 針葉樹・落葉広葉樹・常緑広葉樹を比較すると、全体的にはこの順番で幹比重が大きくなっている(参照:幹比重)。幹比重が小さい樹木は生長が早いとするならば、まずマツなどの針葉樹林が成立し、その後にコナラなどの落葉広葉樹林が、最後にシイなどの常緑広葉樹林が発達することになる。対極的にはそのように遷移は進行していると考えて間違いなさそうである。

b.幹比重の意味するところ
 材は柔細胞、繊維、導管・仮導管などからなっている。裸子植物は導管を持っておらず、水の通同組織としては仮導管のみに頼っている。被子植物は導管と仮導管を持っており、この割合は植物によって異なっている。一般に進化のすすんだ植物ほど導管への依存率が高いといわれている。もっとも体積の大きな導管が多数発達している材は軽い比重を持つことになる。
 導管と仮導管を比較すると、水の通道能力は格段の差があり、導管が勝っている。したがって、仮導管のみによって水を通導させている針葉樹は大量の水を葉に供給することはシステム的に困難であり、水分消費量の少ない葉を持たざるを得ない。
 落葉広葉樹の中では、大きな導管を持っている植物は軽い幹比重となる。すなわち、大量の水の供給が保証されており、大量の葉あるいは大きな葉を保持することができる。一方、常緑広葉樹は導管への依存率が低く、仮導管が通道の主役である事が多い。導管も細く、数も少ないために大きな幹比重を持つことが多い。水分消費量の少ない葉を持つことで、調和がとれているといえよう。

(6)生長に関する資源配分
 植物は種子の中に含まれる栄養分、また葉から得た光合成産物をどのような割合でどの器官に配分するかの戦略は、次年度以降の生長の速度と定着率に大きな影響を与える。この分野に関するデータ蓄積は十分ではなく、今後の研究を待つ必要がある。
a.種子発芽時における資源配分
 種子が発芽する際に使用するエネルギーは親個体から供給されたものである。このエネルギーを使用して、種子はまず根を伸ばし、水分を確保してから後、初めて葉を展開させる。根を張らずに葉を展開させるのは、自殺行為であるから、当たり前といえば当たり前である。したがって、発芽初期においては、根にほとんどの資源を配分し、その後に茎と葉への資源配分が行われることになる。このように、種子発芽の際には、まずは根、次いで茎・葉の順になるのであろうと考えられるが、種子の栄養分蓄積量の大きさによって戦略が異なりそうである。
 微小な種子では、発根直後にエネルギーを消費してしまい、新たなエネルギー獲得のために葉を形成する必要がある。一方、栄養分の蓄積量が大きいドングリなどでは、至急にエネルギーを補給する必要はない。特にアベマキは大型の種子を形成するが、弱光下においても2年程度は生存が可能である。これは大量の栄養分の貯蔵によっている。コナラクヌギアベマキなどの落葉ナラ類の種子は休眠せず、成熟して落下した直後から発根し、冬季も地温が5℃以上であれば根を伸長させ、春に地上部を発達させる段階では、すでに30cm以上の深さに根を発達させていることがわかっている。したがって、発芽初期におけるTR比は非常に大きな値となる。
 発芽直後の段階において、地上部への配分が大きい植物があるとすれば、水分や栄養塩類を苦もなく吸収できるという環境に侵入する植物である場合にのみ成立するであろう。

b.稚樹期から成木へ
 小さな種子を形成する樹種は、稚樹の段階から根と葉のバランスは、それなりに取れているはずである。成木のTR比は3〜5といわれており、地下部1に対して大量の地上部を持っている。これは、光を求めて幹に投資したからである。芽生えた稚樹が定着する段階では、上述のように、栄養分の蓄積量と戦略に関連した資源配分を行っており、大きなTR比を持つ植物や、小さなTR比を持つ植物が存在する。定着以降の生長に関しては、どのようになるのであろうか。
 稚樹の比率をそのまま保ち、相似形で生長する植物があるかもしれない。あるいは、侵入・定着直後には地下部重視の戦略をとり、その後、光を求めて幹や葉に資源配分を移す植物があるかもしれない。このような資源配分の変化は、高木種であるか、低木のままとどまるか、の違いとなってあらわれてくるはずである。

c.資源配分の違いによる成長速度
 葉への資源配分を行う比率が高いほど、急速に葉面積を増大することができる。葉面積の急激な拡大は、樹木全体の急速な生長を可能とする。しかしながら、葉へ資源を重点的に配分するためには、軽い茎を形成するか、栄養分や水分を簡単に吸収できる、良好な土壌である立地でのみ可能である。したがって、土壌が形成されている場所からスタートする二次遷移では、このような性質を持つ樹種が優勢となる。


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