ユキワリイチゲ Anemone keiskeana (キンポウゲ科 イチリンソウ属
 拙宅のある山陽町に、3月の中頃に白い花が咲いている場所があるとの話を聞いていた。岡山県としては沿岸域に近いので、北方系のアズマイチゲではなく本州西部から九州に分布するユキワリイチゲではないかと思っていた。
 生育地は古生層地域のコブシ大から数cmの礫が堆積している谷底から斜面下部にかけての場所であった。急峻な斜面に挟まれた細い渓谷ではあるものの、南北方向の谷であるので完全に日照が遮られているわけではない。ノグルミやコナラ・アベマキなどの落葉広葉樹が優占しているものの、ヤブツバキやアラカシなどの常緑樹の生育が目立ち、ユキワリイチゲの生育地としてはあまり適地ではないように思えた。昔はたびたび薪炭林として伐採され、長期間にわたって里山として維持されていたはずであるが、森林が放置されて遷移が進みつつある。ユキワリイチゲを残すためには、常緑広葉樹を伐採する必要がある。
 礫の供給が多すぎる場所ではユキワリイチゲは生育しにくい。礫の移動が少なくなると、ユキワリイチゲは10cmほども積み重なった礫の間から葉柄をのばしてくる。砂礫の間には落ち葉などがたまって土壌ができるが、土がたまりすぎるとテイカカズラなどの植物が定着してユキワリイチゲは生育しにくくなる。持続的な礫の供給がある場所でなければユキワリイチゲは生育しにくいことになる。地下には、太い地下茎がある。新しく形成された部分には紫色の斑点があり、毎年数cmほど新しい地下茎を形成して移動していくものと思われる。
 生育地が暗いためか、季節が少し遅かったためか、個体数の割には花が少なかった。光が当たっていない花は透明感のある薄紫であるが、木漏れ日が当たると輝きのある白紫色に見える。落葉樹の葉が展開しきるまでの早春、木漏れ日を浴びたユキワリイチゲの花は春を謳歌しているように見えた。
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