マムシグサ Arisaema serratum (サトイモ科 テンナンショウ属)
マムシグサは北海道から九州に分布する多年草。明るい森林や谷沿いのやや湿った場所に生育する。春に地下の球根から茎を伸ばし、2枚の葉と仏炎苞を形成し、その中に花序がある。葉は多数の小葉に分かれており、花の苞は画像のように緑色のものから褐紫色を帯びるものまであり、地方変異が大きい。果実は秋に橙色に熟し、トウモロコシの形となる。茎には褐紫色の模様がある。これがマムシの皮膚の模様に似ているのでマムシグサの和名となった。花の形も蛇が鎌首をもたげているイメージであるが、マムシが居そうな場所に生えていることも重なっているであろう。
マムシグサは茎の模様、葉の形などが属は違うもののコンニャクとよく似ている。地下に球根ができるのも大きさは違うものの、一緒である。葉は2枚しか出す仕組みになっていない。もちろん球根の大きさによって、葉の大きさは異なり、小葉の数は違うものの、枚数は2枚である。新葉を食べられてしまったり、何らかの原因で損傷するとどうするのだろう?と心配になってしまう。
このような、春に葉を形成すると、その後の状況が変化しても対応できないシステムは、まことに融通性に乏しい。コンニャクが畑に植えても大きくなるのに何年もかかるのは、このような頑固さに原因があるのであろう。このようなシステムは、安定した環境に生育することが前提となっている。
球根は食べないように
この仲間は有毒である。動物に食べられないことも融通性の少ない種の特性と関係があるであろう。葉も虫に食べられないのではなかろうか。学生時代、マムシグサと同属のウラシマソウの球根を生で食べたことがある。偶然に土の中から出てきた球根がサトイモとそっくりであったからである。割ってみると、芋はデンプンをたっぷり含んでおり、少し口の中に入れてみた。食感はまずまずであった。その直後、口の中に鋭い痛みがはしった。口中からのどにかけて針をさすような痛みがあり、唾を飲み下す事ができない。帰りの電車の中では、口から涎を垂らしながらの悲惨な状態であった。
実験室で調べてみると、球根や葉にはシュウ酸カルシウムの針状結晶が大量に含まれていた。どうもこれが口の中にいっぱい刺さったものと思われた。調べてみると南方ではこの仲間をさらして食べているという。煮て潰し、長期間水にさらして食べてみたが、やはり針状結晶は全て除去できなかったようで、同じ症状であった。結構高度なテクニックが必要であるらしい。
テレビを見ていると、この仲間の食べ方として口の中で噛まないで、直接胃袋の中に落とし込む方法があるようである。映像では何かに包み込み、上を向いて飲み込んでいた。確かに胃袋までいけば、シュウ酸カルシウムの結晶は胃液の塩酸で溶けてしまうはずである。しかし、あまり試したくない食べ方である。