ノハナショウブ Iris ensata var. spontanea (アヤメ科 アヤメ属) |
ノハナショウブは北海道から九州、朝鮮や中国に分布する多年草。葉は50〜100cmとなり、6月の後半から7月にかけて高さ1m前後の花茎を形成して濃紫色の美しい花を咲かせる。湿原にも生育するが、このような大形の植物は生育に栄養分を必要とし、湿原としては周辺部であって、中栄養の場所に生育することが多い。湿った放牧地などにも群生していることがあるが、有毒であるために牛馬に食べられないことによって繁茂しているものである。 ノハナショウブはハナショウブの原種であり、和名は野花菖蒲であって、ハナショウブができてから後にできた名前ということになる。あるいは、花の目立たないショウブに対比してハナショウブと呼ばれており、園芸的に改良されていく過程で園芸品がハナショウブと呼ばれ、野生種がノハナショウブと呼ばれるようになったのかもしれない。「軒を貸して母屋取られる」のイメージか。 湿原を調査していると、動物やその生活痕に出会うことがある。森の中では地面にはたくさんの草本は生育していないことが普通であり、湿原のようにたくさんの草本が生育している草原は、草食動物にとっては貴重な存在に違いない。特に森の緑が出そろっていない早春、緑になり始めた湿原は格好の採食場であるようで、初夏になるまでスゲなどの若葉が食べられている。犯人はノウサギであることが多く、豆状の糞があちこちで見られる。このような草食動物の存在は、流れ込んでくる栄養塩類を外に運び出す役割、そしてノハナショウブやレンゲツツジなどの有毒植物を選択的に残す役割を演じている。植物の保護・保全は動物も含め、行わなければならない。全部揃って自然である。 |
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