ネズコ(クロベ) Thuja standishii (ヒノキ科 ネズコ属) |
岡山県の総社市に豪渓という花崗岩の渓谷がある。海抜450m前後の吉備高原から海抜25mほどの下流域に近い高梁川に一気に流れ下る渓谷である。花崗岩の奇岩・巨岩、そして紅葉で有名でもある。花崗岩の岩礫地は、アカマツ林が発達するのが普通であった。当地も例に漏れず、教科書的なアカマツ林であったが、マツ枯れ病の蔓延によって次第にアカマツが枯損し、現在では広葉樹優占の森林となっている。 そのような環境の中、見晴台の尾根筋から崖にかけて、にヒノキ科の樹木が生育している。何だろう?ヒノキなどを植林するような(できるような)立地ではない。元々瀬戸内気候の乾燥状態に加え、保水力の低い花崗岩地であって、更に垂直に近いと思えるような崖地である。しかし、ヒノキではなく、アスナロでもなく、ネズコしかない。極限の痩悪地にも生育できるネズコならではなのであるが、海抜250mほどの場所での生育例を知らないので同業者の保障を得るまでは、お蔵入りであった。湿原の周辺や岩礫地などの劣悪な環境においては時としてびっくりするような植物が生育していることがある。氷河時代に分布していた植物は、その後の温暖期には涼しい北あるいは高い場所へと移動するが、競合する植物の少ない劣悪な環境では、移動しなくても生き残ることがある。豪渓のネズコもその例であると思われる。1万数千年前の氷河期にはこの地域にもたくさんのネズコが生育していたのであろう。その後の温暖化、さらには地球レベルの温暖化、生き残っているネズコたちは生き残っていけるであろうか。 |