日光戦場ヶ原のカラマツ Larix kaempferi (マツ科 カラマツ属) |
2018年の10月、植生学会が栃木県の宇都宮大学で開催された。その後のエクスカーションでは日光戦場ヶ原などを訪れた。戦場ヶ原は1974年から度々訪れ、全域の植生図を作成するなど、湿原の中を縦横無尽に歩き回った湿原である。1990年以来の28年ぶりの来訪であtった。
日光戦場ヶ原にはカラマツがたくさん生育しており、戦場ヶ原周辺のカラマツは植林されたものがほとんど。戦場ヶ原湿原の中にもたくさんのカラマツが生育しており、これが湿原の森林化を示す過程であるとの説明があったりする。しかしながら、カラマツの生育原因の1つに、戦場ヶ原への植林と開削などが行われたことがあるなどの事象を知る人は多くはない。 湯川沿いの自然観察路を歩くと、小さなカラマツがたくさん生育している地域があることに気づく。「小さな大木」などのような解説文があったように思う。これらの盆栽状のカラマツの多くは樹齢としては、おそらく50年を上回るもので、印象としては44年前に調査した頃よりも小さく、あるいはまばらになった印象がある。植林されたものが大きくなって倒れ、その後に芽生えたものもあるのであろうが、全体として小さく、まばらになったのであろうと考えた。
戦場ヶ原には排水路が掘削され、カラマツが植栽されたので、排水路の影響が強かったところでは湿原の乾燥化、破壊が進行してカラマツやシラカバが侵入・定着したが、湿原が安定化して生長し始めると逆の減少が起きてくる。全般的には、オオアゼスゲなどのスゲ植物が優占する地域は退行的であってカラマツなどの樹木が生育するが、ヌマガヤやミズゴケ類が繁茂する地域では樹木の生育は困難である。 針葉樹の根は浅くて地表面直下を横に広がるのが常であるが、カラマツもその性質が顕著である。地下水位が高く、根を深くおろせないことも加わって、衝立にしたいほどの広がった薄い根である。葉量の少ないカラマツであるので、常緑のスギよりも強風の影響は少ないのであろうが、さえぎる物のない湿原のほとりでは、矢面に立たざるを得ない立場である。 |