コウヤマキ Sciadopitys verticillata (コウヤマキ科 コウヤマキ属)
 島根県吉賀町(よしがまち)の有飯、九郎原にまたがる地域にコウヤマキが群生する地域があり、「コウヤマキ自生林」として島根県の自然環境保全地域に指定されている。山すそから眺めると、尖った円錐形の樹冠を持つ針葉樹がたくさん生育しており、一見するとブナ林中のスギを連想する。すじ状に見える生育状況は、スギであれば谷であるが、コウヤマキでは尾根であり、尾根筋から山頂に向かっての生育である。
 登っていくと部分的にヒノキの植林地があり、ヒノキ林の中にも点々とコウヤマキの稚樹が生育している。やがてコウヤマキが多く生育し始め、ほぼ純林となる。点々とアカマツが混生しているが、それほど樹齢は大きくなく、枝の分岐数から60〜70前後と思えた。コウヤマキの樹齢については、風倒木切り株を1本確認することができただけであったが、年輪は緻密で150程度を数えることができた。中心部の年輪幅は非常に狭く、被陰された状態であったものが台風などによって上層木が除かれ、生長が回復したものの、最終的には風倒してしまったという歴史であった。おそらく、時折強風による被害が発生し、時にはアカマツが侵入し、またコウヤマキの稚樹が生育し、現状に至っているものと思われる。
 尾根を下っていくと古い切り株があり、大きいものでは直径1mほどのものもあったと思われる。大きなものは建築用材などとして利用されたものと思われる。この林はどのようにして成立したのであろうか。現状では、自然更新していることは疑いもなく、周辺のヒノキ植林に侵入していることを見れば、拡大の様相すらある。しかしながら、まさにこの狭い地域にしか生育していないことも謎である。このように旺盛に群落を形成しているのを見ると、とても遺存植物であるとは思えない。解釈の難しいコウヤマキ群落である。
 
 地元の説明板によれば、この地域の地質は古生層の珪質を主とした粘板岩であり、部分的にはチャート質岩といっても良いものだそうだ。このような地質がコウヤマキ林を発達させた1つの要因とのこと。
種名一覧科名一覧雑学事典目次Top生物地球システム学科