スギ Cryptomeria japonica (Linn. fil.) D. Don (スギ科 スギ属
 屋久島では、工事や土砂崩れなど、裸地となった所にはスぎが芽生えてくる。この島ではスギはすこぶる長寿であるので、結果的にはスギの森林が形成されてもおかしくない。しかしながら、複雑系である自然はそのような結果を許容していないことは、島の森をみればすぐわかる。
 屋久島の林道の周辺には、たくさんのスギの芽生えがある。しかしながら、生長して高木になるのは容易ではない。その原因の1つに、ヤクシカの存在がある。林道周辺の草地は舐めたように草丈が低い。ヤクシカが食べた結果である。生育している低木も例外ではなく、スギも刈り込まれたように美しく丸い樹形になっている。
シカに食べられ、草原のようになってしまったスギの群落
食べられて玉になったスギ食べられて玉になったスギ
シカに食べられている個体の枝高さ1.5mほどの位置の枝先成木の枝先
 シカに食べられている、刈り込まれたようなスギの葉は触ると痛い。シカが首を伸ばしても届かない場所の葉は、触ってもあまり痛くない。比べてみると、葉の出ている角度が違うことに気付いた。食べられている個体の葉は枝から直角に近い角度で出ており、直線的であって細長く棘的である。生垣に仕立てられた場合も同様な葉の付き方になる。食べられる恐怖から逃れることができるほど高く生長した個体の葉は、枝に沿っており、しかも湾曲しているので、触っても痛くない。このような角度は、雨水の排水しやすさと関係があるのかもしれない。スギの葉には雪が溜まりやすい。湿った雪では大変な重さになるに違いない。少しでも着雪の負担を軽減するためにも、枝に沿った葉の付き方は有効であろう。
砂防堰堤上流の堆積土砂上に発生したスギの若齢集団
 砂防堰堤の上流側に溜まった土砂の場所に一斉にスギが侵入している。周辺のスギはシカに食べられているが、中心部のスギはもはやシカに食べられることはなく、すくすくと育っている。スギの集団防衛である。しかし、スギ同士は伸長生長における競争を余儀なくされる。ヤクスギの大きさから言えば、この中で生き残るのは、1本か2本である。
ヤクシカの親子(?)
 ヤクシカは、本土のニホンジカに比べて一回り小さい。林道の周辺は、これ以上食べることはできないほど、舐めるように食べてしまっている。スギなどのヤニを含む植物は、あまり食べないのではないかと思っていたら、スギやヒサカキなどはかなり熱心に食べられている。ためしにスギの若葉を食べてみると、意外にいける。ヒカゲノカズラの胞子体も食べており、ほんとに多様な植物を食べているものと思われた。

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