コシダ Dicranopteris linearis  (ウラジロ科 コシダ属
 岡山県では沿岸部のマツ林の林床に普通に見られる。マツ枯れによって明るくなった森林の中で大群落を形成していることも多い。コシダの落葉は分解されにくいようで、厚い場合には50cmを越え、地表面に厚く堆積する。このような場所ではコシダの葉群の高さは1mを優に超え、2m近くになることもある。このような密な葉群の発達と厚い落葉層のために新規に植物が侵入することは困難であり、現在生育している樹木が大きく生長し、林内を暗くすることができない限り、コシダの繁茂は当面続くことになる。

 コシダの厚い落葉層の発達は、物質循環の立場から見れば、栄養塩類などの地表面への滞留を意味している。コシダに吸収された栄養塩類は分解されずに地表面に堆積し、樹木にはなかなか供給されない。一方、樹木から落ちた落葉はこのコシダの落葉層に含まれることになるが、この層の中にはコシダの根茎が発達しており、まずはコシダに吸収されることになってしまう。瀬戸内海の少ない降雨もコシダに吸収され、地中に根を張っている樹木にはなかなか届かないのかもしれない。

 このような厚い落葉層の存在は、山林火災の多発と延焼面積の増大を引き起こしている。早春に多発する山林火災がこのようなコシダ群落で発生すれば、地表の厚い落葉層が燃料となり、勢いよく広い面積にわたって延焼してしまう。山林火災の跡地では、くるぶしまで埋まってしまうほどの灰が残っており、燃焼前の落葉層の厚さがわかる。
 山林火災の跡地では、生き残った株から萌芽再生したり、埋土種子から植生の回復が行われるが、コシダ群落が燃焼した場合は、落下していた種子がこの落葉層の中に含まれているので、種子もろとも燃焼してしまうので、埋土種子からの再生は望めない。生き残った地下部とその後に新たに飛来する種子からの植生再生となる。

 山火事から少したって火災跡地を調査すると、岩の下などで燃え残ったコシダの地下茎から点々と小さな個体が再生している。湿った粘土質の土壌の場所では胞子からの再生も迅速であり、山林火災跡地は速やかにコシダが再生してしまう。肉を切らせて骨を裁つコシダの戦略であろうか。
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