物質循環からみた生態系



 生物の体を構成する物質の中で、環境中不足しがちな物質は、生物群集の中で通貨として機能する。生態系の仕組みをこのような物質の移動・循環の観点から見ることにより、理解を深めることが可能になる。このような、環境中に不足しがちな物質は、栄養素として位置付けられるものも多い。

 生態系中における物質循環で取り上げられることの多い物質としては、有機物、炭素、窒素、リン、カリ、カルシウム、マグネシウム等がある。

1.チッ素の循環
(1).チッ素固定を行う生物


(2)チッ素の変換


  硝酸塩→亜硝酸塩→アンモニア→アミノ酸→タンパク質

(3)脱窒


(4)植生と窒素


 表1.森林型とリターフォールおよびその養分量

調査
林分数
乾物
t/ha・yr

kg/ha・yr
乾物/N

kg/ha・yr

kg/ha・yr
Ca
kg/ha・yr
Mg
kg/ha・yr
亜寒帯・亜高山常緑
針葉樹林
4.23
±0.97
29.93
±16.43
141
2.57
±1.31
7.05
±2.30
26.89
±7.59
(2.7)
-
温帯常緑針葉樹林
41
4.57
±1.42
33.21
±12.61
138
2.82
±1.35
9.25
±4.68
33.02
±17.23
4.59
±1.42
温帯落葉広葉樹林
40
4.07
±1.00
44.92
±17.09
91
4.05
±1.92
15.98
±8.64
52.81
±25.81
7.90
±3.95
照葉樹林
13
6.51
±0.81
72.75
±8.57
89
4.78
±2.18
24.95
±12.11
72.23
±14.18
9.84
±1.75
熱帯林(常緑樹林)
32
9.87
±2.36
144.0
±38.41
69
7.86
±3.16
56.34
±30.35
126.0
±60.14
35.51
±12.53





2.リンの循環
 リンは、生物体の構成物質として重要であるが、基本的には岩石の風化による供給が主である。造岩鉱物が風化され、その構成物質である P、K、Ca、Mg などが溶出し、植物が利用可能な状態になる。このような岩石の風化および植物体への吸収は、菌根菌の働きが大きく貢献している。植物に吸収されたこれら栄養分は植物から動物へと移行し、生態系中を循環するが、長期的には水の流れにしたがって川から海へと流亡する。
 川や海から再び陸上へもどる経路は2つある。1つは海底などに堆積した泥土が岩石となり、やがて地殻変動によって陸になり、この堆積岩が再び風化するという、とてつもながい地質学的年代における循環である。もう一つは、水界に到達したリンが

 植物プランクトン→動物プランクトン→小型動物→魚→水鳥 
 という食物連鎖により、陸上へともたらされるものである。カゲロウ類などの水生昆虫が羽化し、陸上に飛来する場合には、水界から陸上へ相当量のリンを回帰させることになるし、水鳥の糞が堆積したグアノやこれが変性したリン鉱石なども、基本的には動物によるリンの陸上への回帰である。水生昆虫の豊かな水域は、これら動物によって栄養塩類が除去され、水質浄化に関しても、良好な生態系であるといえよう。

3.有機物の循環
 窒素やリンなどの循環は、基本的には有機物の中に含まれているので、全体的には有機物の循環として理解される必要がある。有機物は生産者である緑色植物に源を発し、動物や菌類などの形態へと変化しつつ生物群集の中を循環している。有機物の分解は細菌や菌類などの生物現象であり、これらの活動は温度や酸素の有無などの環境によって支配されている。

 これらの環境条件の他、植物から供給される有機物の化学組成によっても分解速度は大きく影響される。例えばアカマツなどの針葉樹落葉は樹脂を含んでおり、分解しにくい。地表に供給された有機物が分解されないと、物質循環の停滞が生じる。このような有機物が大量に蓄積された場所は、多量に栄養物質を保持してはいるものの、実際に生育している植物には栄養物質は供給されず、新たな栄養物が域外から供給されない限り、貧栄養な状態となってしまうのである。



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