身近な生物学T 春1学期
8.繁殖と進化
    生命は自分をたくさん増殖したいという欲求とともに、より良質なものへと進化したいという欲求を持っている。より進化するためには、自己と異なる個体と遺伝子を交換する必要があり、これが生の発生である。このようなシステムと遺伝について学ぶ。
(1)有性生殖と無性生殖
    何が「性」なのか、どのように「性」ができたのか、と改めて考えてみることにしよう。性の意味を考えるために、無性生殖と有性生殖の特徴、得失を考える。

    @無性生殖
     1つの個体が2つあるいはそれ以上に分裂することによって行われる生殖であり、原則として母個体と娘個体の遺伝的特性は同じである。単細胞生物の場合では、細胞分裂が無性生殖である。多細胞生物では、体が二等分、あるいは不等分裂して新たな個体が形成される。生物によっては無性生殖専用の器官が形成されている(例えばムカゴ)。

     無性生殖では、新たに獲得した栄養素に見合う無性生殖を行うことになり、無駄が少ない。また、生殖に当たって複雑なプロセスは必要ではない。新たに形成される個体群の遺伝子は原則的に同じなので、適した環境では大繁殖することができるが、厳しい環境では全滅する可能性もある。

    A有性生殖
     雌性配偶子(卵:n)と雄性配偶子(精子:n)が合体して受精し、配偶体(2n)を形成する。配偶体は生長し、やがて減数分裂を行って配偶子を形成する。

     減数分裂→受精 という複雑な過程を行うことによって、生まれる新たな配偶体の遺伝組成には、大きな変異があることになる。その結果、さまざまな環境の中で、それに適した遺伝子を持つ個体が生き残っていくことになる。
     有性生殖では、卵子に比べて膨大な数の精子が生産されるのが常である。精子が卵子に出会う競争は、損耗戦であり、卵とめぐり合えて受精できる可能性は、数学的には≒0である。したがって、非常に多くの配偶子が無駄になる。また、できる新個体は環境に適合したものばかりではなく、不適な遺伝子を多数持つものもある。

     これらのことから、無性生殖は確実で無駄の無い生殖手段であるが、進化することを選択していない生殖手段であるといえよう。シアノバクテリアなどに関して言えば、進化せず、原始的であることを選択しているがゆえに、世界に広く分布して生育できているといえるのではないかと考える。
     
     一方、有性生殖は複雑で効率が悪い生殖方法であると言えるが、進化に関しては飛躍的な発展を可能としている。

    ○無性生殖も有性生殖もそれぞれ利点を備えているわけで、両方を行う生物も多い。

(2)「性」の起源
     上述のように、速い速度で進化することを選択した生物は、遺伝子を交換することで、個別の突然変異で獲得した形質を組み合わせることが可能になり、進化の速度は飛躍的に上昇することになった。この際問題となるのは、自分と同じ遺伝子を持つ個体と遺伝子交換しても意味は無いわけで、異なる遺伝子を持つ自分とは異なる性質を持つ個体との遺伝子交換が必要である。

     性のスタートは、自分とは異なる性質を持つ個体を認識することであった。したがって、性は無段階であり、相手によって雄的に行動したり、雌的となったりと、相対的なものであった。

     例えば、三段階の性がある場合を考えてみよう。 ♂♂、♂♀、♀♀ と表記する。
    ♂♂にとって、♂♀と♀♀は両方とも♀であるが、♂♀よりも♀♀の方が、より魅力的であり、中間的性は存在することが困難であることがわかるであろう。

     中間的な性があってもかまわないが、最も違う性質を持つものが最も魅力的というルールの中では、♂と♀以外の中間的性は必要ではなかった。違うことが引力・魅力である。

男の脳 女の能
 男性と女性は同一種の性であるので、脳の基本機能は同一である必要がある。しかしながら、相互に魅力を備えていなければならないという矛盾を内包している。男性と女性の脳の違いについてはネット上にもたくさんの記事がある。ここではネット上で取り上げられていない点にスポットを当ててみよう。

    色彩感覚:保育園や幼稚園などでの調査結果では、女の子は男の子に比べて絵を書く際に使う色数が有意に多いことがわかった。男の子は黒や青の色を好み、自動車や飛行機、戦車などをテーマにする傾向がある。女の子は色数が男児よりも2.2色多く、暖色が多い。特にピンクや黄色などをよく使い、家の周辺に家族などの人間や花が描かれることが多い。
    ⇒色に関する感覚が男性と女性で異なっていることを示している。色への価値観が違っているわけであり、女性が普通に選択している色が男性には非常に刺激的であったりするわけである。

    地理的感覚:男性に比べて女性は方向感覚に劣る場合が多い。これは、出生後数日のラットに対し、男性ホルモンを与えると、性差に係わらず地理的感覚が上昇し、迷路テストの正答率が上昇する実験結果で証明されている。
    ⇒男性は地理的感覚に優れ、道に迷いにくく、一生故郷の位置を正しく認識しており、帰省を夢見ることがあるが、女性は地理的な価値観が低く、世界各地を安住の地として生活できる。

    右脳と左脳の分化:右脳と左脳の機能には違いがあり、その違いの傾向は、男性と女性で異なっている。すなわち、男性ホルモンによって、より右脳と左脳の機能が分化することになり、専門性が高くなるといえよう。女性の脳は、両脳的であり、右脳と左脳が協調して機能するといえよう。

      左脳:学習や知能の集積、言語的で概念構成的、算術的、計算機類似的
      右脳:非言語的で音楽的、絵画的、図形的感覚、幾何学的、空間j的

    左脳を損傷した場合、右半身に麻痺が発生し、失語症となる場合が多い。男性では失語症からの回復が困難な場合が多いが、女性では右脳が補助的に機能する結果、ある程度の回復する場合がある。このように、男性と女性の脳の使い方に違いがあり、それが女性と男性の特徴となっている。
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