イトクズモの生育観察
2001年4月〜2001年11月(平成13年度)の状況
(速 報)
 
《保全池ごとの生育状況について》



 

 2000年4月から2001年11月現在までの20ヶ月間における、保全区域内のイトクズモ植被率の変化状況を下図に示します。

 

図  イトクズモの植被率(2000年4月〜2001年11月)

 

 これから、各保全池ごとにイトクズモの植被率(生育量)に差があり、また、それらに季節的な変化があることが解ります。
 保全池完成当初から現在まで良好な生育が観察されている福成川側水路(図中緑色のライン)では、4月〜6月に最も生育量が増加します。この期間は気候もよく、旺盛に生長し、種子の生産も活発に行われます。結実した大量の種子は、切れ藻と共に浮遊したり、枯死した茎葉と共に底泥中に埋没します。7月〜8月になると、一時的に生育量が減少します(植被率0%)。これは、夏季の小雨と気温上昇に伴う水位の低下や水温の極端な上昇などにより、一時的に生育条件が悪化するためと考えられます。9月〜10月になり、雨量が回復して生育に好適な条件となると、埋土種子が発芽して、再び成長を開始します。しかし、冬季は水温が低すぎるため、春季に比較すると生育量も種子の結実も少ない様です。
 一方、ひょうたん池(図中赤色のライン)では、側水路に比較すると本種の生育量は少ないものの、それと同様な植被率の季節的な変化が観察されます。しかし、2000年5月には80%であった植被率が、1年後の2001年5月には、約半分の40%に減少しています。また、三日月池(図中青色のライン)では保全池完成直後は60%であったものの、2000年7月以降、イトクズモの生育がほとんど観察されなくなりました。 

 

 隣接して設置され、イトクズモの生育に適する環境の創造を目的に設置された、これら3つの保全池において、なぜこの様な生育量の差が生じたのでしょうか。現在までの観察から、保全区域におけるイトクズモの生育に影響を与えている主な要因として、以下の4項目が考えられます。これらについて整理し、各保全池の現状の把握を行いました。

 

・ 水 質 (電気伝導率,塩分濃度,pH,水温)
・ 水 深
・ 底 質 (科学的酸素要求量,硫化物量,熱灼減量)
・ 雑草の侵入

 

項 目結 果
水 質 ・イトクズモの生育には問題無い状態である。
・側水路で電気伝導率と塩分濃度が最も高い。
・三日月池で同値が最も低い。
・側水路の暗渠が塩分の供給を効率よく行っている。
水 深 ・イトクズモの生育には問題無い状態である。
・ひょうたん池と三日月池では季節的な水位の変動がある。
・側水路では水位の変動が少ない。
底 質 ・イトクズモの生育には問題無い状態である。
・ひょうたん池と側水路で富栄養化,嫌気化が強い。
・三日月池は他者に比較して嫌気化しにくい。
雑草の侵入 ・除草作業の実施によりイトクズモの生育には問題無い状態である。
・ひょうたん池ではエビモが繁茂している。

 

 これらの結果から、各保全池の現状の問題点とそれに対する改善策を整理しました。
 現在、良好な生育が継続して観察されている側水路については、生育状況の点からは、特に問題は無いものと考えます。一方、ひょうたん池については、エビモの繁茂が問題視されますが、今後は、エビモの生育を容認し、これを含めたビオトープ池としての管理を検討することが有効と考えます。また、三日月池については、底質の有機物量に問題がありますが、改善策の検討には今後の観察が必要と考えています。

 

池 名現況の問題点と改善策
ひょうたん池 ・エビモの増加によりイトクズモの生育に影響のある可能性がある。
・エビモの除去は必要だが、除去作業に伴いイトクズモの生育にもかなりのダメージがあると推察される。
・今後のイトクズモの生育を観察し対策を検討。
・エビモを含む多くの植物の生育するビオトープ池としての管理も検討する。
福成川側水路 ・最も良好にイトクズモが生育する。
・生育状況の点からは特に問題は無い。
三日月池 ・底泥の有機物量が少なく、比較的嫌気状態になりにくい。
・構造的に同質なひょうたん池では問題ない。
・今後の観察が必要。

 



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