イヌツゲ Ilex crenata Thunb. (モチノキ科 モチノキ属
 イヌツゲは常緑の低木であり、大きく育ったものは少ない。しかし、図鑑には高さ2〜6mになる常緑小高木と記載しているものがあり、まれに高さ16mにもなるとしている。それほど大きなものではないが、長崎県の雲仙には、樹高の高いイヌツゲが生育しており、群生地は天然記念物に指定されている。ススキ草原中や湿原の周辺に生育しているものは単幹状となって樹高も4〜6mもある。葉を手に取ることができなければ、イヌツゲとは思いにくい樹形である。指定されている群生地も次第に遷移が進み、モミなどの高木が侵入しつつある。30年ほど前に来訪した時に比べて、ずいぶんと数が減ったように思う。高さ競争ではとても高木にはかなわない。

 雲仙は火山地域であることや九州の西に突出した半島であることなどから植物の欠落が目立つ。そのような状況の中、思わぬ植物が大きく育って欠落した植物の役割を演じている。イヌツゲのほか、リョウブの巨木林などを見ると、樹肌や葉っぱは良く知っている植物であるのに、名前が出てこない。樹形や幹の太さが通常見慣れているものとかけ離れて違えば、見誤ってしまうのである。
 いくら樹高が高いとは言ってもそこはイヌツゲであり、競合する高木性の樹木が生育しにくい、あるいは定期的に除去されてしまうなどの条件がなければ存続は難しいはずである。普賢岳の噴火によって火山ガスが発生し、広い地域でモミなどの樹木が枯れてしまった。このような激しい環境とイヌツゲ群落の成立・存続は関係があるのではないかと思うがどうでしょうか。


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