ブ ナ Fagus crenata Blume (ブナ科 ブナ属) |
ブナの樹皮は元来灰白色であるというが、地衣類やコケが覆って地肌が見えることはほとんどない。白から灰色・やや緑色を帯びた紋様は菌類と藻類の共生体である地衣類であり、濃い緑褐色の部分はコケ植物である。定着したのはこれらの木がもっと細かった時代であり、幹の肥大成長に伴って横に引き延ばされた紋様となっている。 ブナの樹皮に地衣類やコケ植物が生育できているのは、樹皮が剥がれ落ちないというブナの性質による要因が大きいが、幹を雨水が流れ落ちることも友関係が深い。降雨時にブナ林を歩くと、幹に勢いよく雨水が集まって流れているのに驚かされる。ブナの樹形は水を集めるようにできているらしい。このような幹を伝う流れを「樹幹流」という。この樹幹流は単なる雨水が集まって流れているのではなく、成分的に違いがあるとのこと。ブナから洗い出された栄養塩類や樹幹に生育する生物などからの栄養分も含まれているのであろう。ブナの樹幹はこのような水に養われる地衣類やコケ植物の生活場所となっている。 ブナの樹幹を伝わって流れてきた水は、ブナの根元で地中に吸い込まれ、地表を流れる水は見えなくなってしまう。地面に吸い込まれていくのである。ブナ林の土壌は豊かであり、黒い土の中にまるでスポンジに吸い込まれていくように雨水が吸い込まれていく。ブナ林の発達する冷温帯は、夏の間は結構気温が高いので植物の生産性は高い。しかし、暖温帯に比べて有機物の分解速度は遅く、差し引きとしての有機物の蓄積速度は最も多い地域である。この厚く積もった有機物を多量に含む土壌が大量の水分をため込むことができるのである。もちろん、土壌動物もたくさん生息しており、土の物理構造を良好なものにしているに違いない。ブナ林は緑のダムとも呼ばれるが、それは地上部の植物ではなく、ブナの作り出した豊かな土壌が雨水をため込むのである。 |