スダジイとツブラジイ ブナ科 シイノキ属
スダジイツブラジイ
 スダジイとツブラジイは区別しにくい種の1つである。例えば、日本植物誌(大井、1983:至文堂)では、スダジイとツブラジイの違いは次のようであるとされている。
     「スダジイはツブラジイに比べ、枝は太く、葉は厚くて少し大きく、堅果もやや大型で卵状長楕円形、樹皮は早くから裂けて割れる。」
 ドングリが稔っている時には、大きくて卵状長楕円形のものがスダジイ、小さくて球形に近いものがツブラジイとして同定することが一応可能である。ドングリが稔っていない時期は同定が困難であり、樹皮の割れ具合に頼ることになるが、若木の時期には区別できないことになってしまう。常緑樹林の調査では、専門家もこの点には困っており、葉の断面を比較することによって区別が可能であるとの話もある。この他、ツブラジイはあまり長寿ではなく、巨木に生長する前に幹の内部が腐朽して枝折れや風倒が発生しやすいことがわかっている。中間的なものも多いとの話もあり、同一種の変異としてとらえるべきであるとの考えもあるようである。

 平凡社の「日本の野生植物」では、スダジイの表皮細胞は2層からなるが、ツブラジイの表皮細胞は1層であり、これにより区分できるとしている。試してみると、手間暇がかかり技術が必要なのは当然であるが、1.5層としたいような、中間的なものもあって、簡単・完璧とはいえないのではないかと思う。しかし、幼い個体では、これ以外に頼る方法はない。

 スダジイとツブラジイの違いとして、寿命の違いがある。ツブラジイは幹に病気が入りやすく、100年前後で幹が折れてしまうことなどが発生し、巨木として生残することは少ないとのこと。確かに若齢〜中齢のツブラジイは見るものの、巨樹・巨木に指定されているのはスダジイばかりのようである。

 スダジイとツブラジイは交雑する。遺伝子的にはスダジイとツブラジイの間に連続的な勾配があるのが実態であろう。そのような様々な遺伝子を持った種子群が発芽し、立地や伐採間隔などに対応してその地域・場所にスダジイらしい個体が生育したり、ツブラジイらしい個体(遺伝子)が集積されるのではないか? との考え方もある。つまり、若木の段階では、スダジイらしい個体からツブラジイらしい個体が混在しており、その中で伐採が繰り返されるとツブラジイが残り、長期間保護されると長寿のスダジイのみが残存するというわけである。

岡山県におけるスダジイとツブラジイ
 教科書にも掲載されている代表的な照葉樹林の優占種であるスダジイであるが、岡山県ではそれほど少ないのである。全国的には暖温帯の普通種であっても、岡山県では希少性がある。その理由は乾燥である。岡山県の瀬戸内海沿岸域は気温的には暖かいものの、乾燥が著しい。このためにこれらシイ類はごく少なく、社寺林においても残っていることは少ない。特に乾燥しやすい花崗岩を母岩とする地域ではほとんど欠如しているといって良い。
 このような状況のため、岡山県ではスダジイとタブノキは乾燥する瀬戸内海の沿岸低地には分布せず、内陸側の海抜高度が高く、雨量の多い吉備高原地域に分布が見られる。ツブラジイはこれよりも沿岸側に分布している。(岡山県における樹木分布へ
 「鎮守の森」の回復を目指し、岡山県においてもシイノキを含む常緑樹のポット苗を植栽する事が行われている。平野部の平坦地など、良好な土壌地に植栽されたものは比較的良好な生育を示しているものの、多くの造成地などでは活着することも困難な状況である。自然分布を越えて、あるいは劣悪な環境への植栽は慎みたい。

本拠地ではシイ林を伐採するとシイ林になる
 教科書的には、シイ林は暖温帯における気候的極相林であるとされている。しかしながら、例えば九州などの常緑広葉樹の本拠地では、シイ林を伐採するとシイの萌芽林となり、若いシイの二次林が形成される。一方、分布の限界地域に至るほど、遷移の後半にしか出現しない。シイそのもののバイタリティが低いので、侵入の条件が限られており、生長に時間がかかるためである。「マツ林→落葉広葉樹林→シイ林」という、教科書的遷移は関東を例とした場合であって、九州や沖縄では実態は異なっている。自然を例示するためには、地域もあわせて表示しなければならないし、自然を解説する内容に関しては、地方版の教材が必要である。

種名一覧にもどる / 科名一覧にもどる / 雑学目次にもどる / HPにもどる