ヤマシャクヤク Paenia japonica (ボタン科 ボタン属)
 ヤマシャクヤクの生育地は、ブナやミズナラなど生育する夏緑広葉樹林の中である。日本のブナ林は、林床がササ類に覆われている場所が多いが、ヤマシャクヤクのような、さして背も高くないのに葉を横に広げる傾向が強い草本が、この密生するササの中で生き残ることは難しいだろう。
 1番目の画像は、ヤマシャクヤクの群生していた斜面である。画像ではよく解らないかも知れないが、斜面の傾斜は40度以上であった。土壌の表面には拳程度の礫が転がり、登山道から逸れての撮影は、かなり危険である。この様な場所は、恒常的に土壌が流亡することでササ類の定着が難しく、また樹木も、あるサイズ以上になると倒伏しやすくなるために、比較的オープンな環境が形成されやすい。地盤は悪いが、日当たりはバッチリである。
 多年草であるヤマシャクヤクは太い根茎をもち、根を地中深くまで伸ばすために、そう簡単には抜けないらしい。一方、タネは発芽するまで数年を要し、発芽後の生長もゆっくりしたもので、開花までなかなか時間がかかるらしい。定着後は多少の土砂崩壊にも負けない強い根茎をもち、生育地の拡大には、新たな土砂崩壊をタネでゆっくり待つ。これは、崩壊地に生きなければならないヤマシャクヤクの、したたかな戦略なのかも知れない。
ヤマシャクヤクの生育地
ヤマシャクヤク花芽のない若い個体

(文章・画像:森定 伸)
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