ムカゴトラノオ Bistorta vipipara (タデ科 イブキトラノオ属
 カナディアンロッキーの高山草原に小さな白いタデが生育していた。イブキトラノオみたいな花序、花序の下半分には無性芽がついていた跡があり、その点ではムカゴトラノオによく似ているが、あまりにも小さい。茎の高さは7cmほどしかないので、チビムカゴトラノオと勝手に名前を付けた。葉の長さも一緒に生育しているチョウノスケソウが1.5cmほどなので、4cm程度の長さしかないことがわかる。

 少なくとも亜種か変種ぐらいにはなるであろうと思っていたが、調べてみるとどうやら単なるムカゴトラノオであって、日本のものと同種であることがわかった。環境の厳しい場所で生育することによって、小さく育っただけと言うことになる。逆に言えば、こんなに小さくてもライフサイクルを全うできる能力が、北半球に広く分布することを可能にしているとも言えよう。また、地下部での栄養の貯蔵とムカゴという無性的な繁殖手段が種の分化の速度を遅くした結果、北半球同一種という状況を生み出したと考えてはどうであろうか。

 改めて画像を眺めてみると、チョウノスケソウの間などに結構ムカゴトラノオの根生葉が覗いている。花を咲かせるほどの栄養分の蓄積ができていない個体がたくさんあるということになる。ムカゴを生産するほどの余力を持つことは簡単ではないのであろう。まずムカゴを作って散布する。ムカゴは繁殖子としては、種子などに比べて大量の栄養分を持っており、厳しい立地への定着は有利であることになる。ムカゴを落とした跡を見ることが多いので、作って早期に散布するものと思う。急速なムカゴの生長は地下部からの流転であろう。花を咲かせると、というか種子は普通結実しないそうなので、ムカゴを作ると蓄えができるまで休むのかもしれないと思う。
種名一覧科名一覧雑学事典目次Top