2013/08/31〜2013/09/04
カナディアン・ロッキー Canadian Rocky |
1.カナディアンロッキーの自然 カナダを訪れたのは2回目。優れた自然に簡単にアクセスできるという点ではカナディアンロッキーは旅費が高いという点を除けば一押しである。まとまった日数活動できるのはお盆休み程度なので、季節的には少々遅いハイキングであるのは仕方がない。春と秋は退職後にとっておくことになる。 今回はハイキング主体のツアーで、参加者はわれわれだけの場合もあるし、3カップル程度のこともあった。ところで、我々は最初から本格的な登山をするつもりであったので、それなりの装備を整えていたのだが、参加者の中には少々体力的に問題がある人がいた。美しい湖が掲載されたパンフレットにハイキングという文字をみつけ、軽いつもりで参加したという。現地ガイドと話してみると、登山道のあるところを歩く登山が「ハイキング」と呼ぶのだそうで、立派な登山とのこと。日本語のパンフレットは日本で通じる言葉で書くべきである。因みに今回の拠点バンフは海抜1463m、車で移動して1700m程度のところから2400mほどのところに登ることが多かった。空気の薄さもあって、立派な登山であり、ライトトレッキングとしたほうが、良かろうと思うしだい。 @カナディアンロッキーの森林
a.ロッジポールパインの林 2007年に訪れたときは高速道路(とはいっても人も自転車も通ってもよいのだが)を拡幅中であり、森林の断面が見えた。植林かと思えるような密集したロッジポールパインの純群落である。下枝は枯れ上がっており、生育には比較的強い日照を必要とするのであろう。因みに地表部の赤いものは野生動物が道路に侵入することを防ぐためのネットである。このネットの高さが2mよりも高いので、結構な樹高である。
ロッジポールパインは、通常は球果の鱗片をあまり開かず、山林火災の熱によって一挙に開いて種子を散布するマツとして有名である。山火事を待って種子を散布し、一斉林として復活することになる。河川沿いの平野部(海抜1500m程度)などに多く、高地になるにつれて少なくなる印象がある。 b.ミヤマバルサムモミとエンゲルマントウヒの林 残念ながら、ミヤマバルサムモミとエンゲルマントウヒの生態的違いは最後まで良く分からなかった。近寄って枝葉や樹皮を見ることができれば両種の区別は簡単なのだが、遠く離れての確認は、球果が確認できる場合のみであり、エンゲルマントウヒであることが確認できる場合以外は、結果的に不明になってしまうからである。高性能の双眼鏡を持っていけばよかったと悔やまれた。 樹皮での確認では、両種は混生しており、おそらくエンゲルマントウヒの方が長生きで、結果的に安定的な場所ではエンゲルマントウヒが多くなり、倒伏したなどのかく乱があった場所にミヤマバルサムモミが侵入するのではないかと考えたが、結局は良く分からない。 全面針葉樹林というこの状況で、何の木かが分からないのはまったく残念。登山道をあるいてみると、両方生育しているのだが、その理由がわからない。 ツルッとしているのがミヤマバルサムモミ、うろこ状の樹皮がエンゲルマントウヒ、両方が混交している。この場所ではミヤマバルサムモミのほうが太い。おそらく一斉林であり、ミヤマバルサムモミのほうが生長速度が速いためだと思う。 エンゲルマントウヒの群落の中に、ときおり若いミヤマバルサムモミが生育していることがある。逆は見えなかったので、土砂崩れなどではミヤマバルサムモミが侵入しやすいのであろうと思う。 c.タカネカラマツの林 タカネカラマツの出現域は森林限界であり、本種が分布していなければ森林限界は100mほど低くなるのではないかと思う。傾斜が急な場所ではエンゲルマントウヒやミヤマバルサムモミなどが生育しており、傾斜が緩やかな場所でタカネカラマツ林となる傾向がある。平坦地や凹地で冷気がたまって気温が低下する可能性があるが、このような低温への適応能力か、積雪に関する抵抗力なのかもしれないと思う。 大きな谷を挟んでの向こうの尾根には色の薄いタカネカラマツが生育しているが、急傾斜地には色の濃いAbies_Piceaが生育していることが分かる。近景の池は向こうの尾根よりも低いにもかかわらず、タカネカラマツの林となっている。カラマツの樹高が池に近づくにつれて小さくなっている。ここらがポイントかもしれない。 タカネカラマツ林は落葉樹林なので明るい。それだけでなく、積雪によって曲げられてしまうのでさらに明るくなり、赤いインディアンペイントブラシや黄色のArnica_cordifoliaなどのお花畑になる。なんともすばらしい景観であった。こんな風景も、実は林野火災の履歴を持っているのかもしれないが。 A山林火災 ガイドが空気が澄んでいないことで、山林火災が原因ではないかと言っていた。小生にとっては、十分空気はきれいだったのだが。 帰りのカナダ航空はカルガリーからアラスカ沿岸を通り、日本に向かった。このためにカナダのロッキー山脈の上を長く飛行し、楽しむことができた。たくさんの氷河を見ることができたが、山林火災もみることになった。最初のものは、盛んに煙を噴き上げていたが、規模は小さいように見えた。道路に接しているので、鎮圧されるであろうか。 二箇所目の山林火災の規模はものすごいものであった。最初は雲か霧と思ってしまい、カメラを準備することが遅れてしまった。燃えている最先端部では炎が見えた。煙は雲と重なってしまい、積乱雲のようになっていたが、これは山林火災のために形成されたものかは定かではない。しかし、周辺には積乱雲はなかった。 ツアー中に見えた山林火災跡地は、生き残った樹木もあり、こんな状態であれば、生き残った木からの種子供給も森林再生の形態に大きく影響を与えるものと思われた。 山林火災はアメリカではよくニュースになっていて、民家に迫る火災を消火している様子が放映される。しかし、カナダでの林野火災は報道されているのを見た記憶がない。学術的には、ロッジポールパインの球果が通常状態では開きにくいので種子散布を行いにくく、火災の熱によって樹脂が溶けて鱗片が開き、一斉に種子散布が行われることが知られており、山火事生態系 Fire ecosystemの代表例としてよく知られている。 ロッジポールパインは火災によって死亡する場合が多いのであろうが、球果は残っており、鎮火後に種子を散布することになれば、一斉林としてロッジポールパインの林が再生することになる。実際の状況を知らないので、なんともいい難いが、種まきをしたかのようなロッジポールパインの林を見ると、そのような更新形態になることは、納得できる。 ところで、このような一斉林としての再生には、何らかの条件があるように思う。というのは、山林火災後の再生のあり方として、Populusの根からの再生があるからである。カナダのPopulus;Aspenにはバルサムポプラとアメリカヤマナラシがあり、これらは山林火災で地上部が失われても根から発芽して地上部を回復する。小さな綿毛で飛行する種子からよりもはるかに早期に地上部を再生することができる点で、有利である。どのような場所でAspenからの再生が起こり、どのような場所ではPinusから再生するのか、いまひとつ理解できていない。 ここに示した画像が山林火災からの回復過程を示しているのであれば、ある程度肥沃な立地では、あるいは面積が狭いパッチ状の森林では、林野火災の後にAspenが再生するが、その間にPinusが侵入しており、やがてPinusの森へと遷移する、ということではどうであろうか。 |
2.カナディアンロッキーの植物
植物の同定、記載に関しては秋山裕司著「カナディアンロッキーの高山植物」2008.CRUX PUBLISHINGを主に参考にしている。 |