モウソウチク Phyllostachys pubescens (イネ科 マダケ属
タケの秋
 山の緑が色濃くなり、タケノコが伸びきった頃、竹林を歩くと空からクルクルと回転しながらタケの葉が落ちてくる。地面も黄色く染まっており、タケの落葉季である。モウソウチクの葉はタケノコが伸びきって枝を展開する頃、一斉に新しいものに取り替えられる。葉の寿命はちょうど一年間である事になる。この頃の竹林は遠目に見ても黄色がかっており、よく目立つ。ムギもこの頃に稔って田植えの頃に麦畑だけが黄金色の秋の風景を醸し出しており、「麦秋(ばくしゅう)」という俳句の季語があるが、同じ頃に葉を落とす「竹の秋」も季語である。

モウソウチクは「木? 草?」
 竹は木か草か?という質問は時折耳にする。モウソウチクの開花は50年あるいは100年ごとと言われるが、東大の演習林に植栽されたモウソウチクが67年ぶりに開花し、その株分けの竹林も同時に開花した。開花はどうやら気候的や土地的なものではなく、体内時計によるものらしい。どちらにしろ、花が咲くと枯れるという性質は、草的である。一方、60年以上も花が咲かないという性質や材が堅いことは木的であり、伸びきってしまうと以後幹は太くならない点は草の性質である。
 元々、草と木の区別は厳密なものではなく、しっかりとした学術的な定義があるわけではない。オシロイバナは日本では一年生草本であるが、原産地では樹木である。同じ種であっても、生育環境によって草であるか、樹木であるかが変化してしまう。結論としては、多様な植物を草と木に二分することに無理があり、モウソウチクは草と木の性質を持っているという、曖昧な結論になってしまうのである。

タケの猛威
 モウソウチクのタケノコは春の味覚の1つ。昔から食べられてきたが、用材としての利用価値は大変高いものであった。パイプ構造であり、所々に節を持つタケの構造は重さの割には大変強靱である。先端に至るほど細くなる欠点はあるものの、鉄製品やプラスチック製品が普及するまでは、建築用材、農業資材、漁業資材として活躍してきた。手軽に使用できるよう、農家の裏や耕作地の周辺などに植栽され、竹林として維持・管理されてきたのである。
 この竹林が放置されてしまった。用材としての利用はほとんど無くなってしまい、タケノコも安い中国産に押され気味である。このような中、モウソウチクやマダケの竹林は周辺の森林や放棄水田などに広がり、猛威を振るいつつあるといった状況になっている。周辺の森林は次第に回復しつつあるものの、マツガレ病の蔓延によって大きなダメージを受けた。樹木は長い年月を掛けて生長し、次第に樹高を増していくが竹は一気に10m以上の高さにまで到達してしまう。光を奪われた樹木は樹高を高くすることができず、やがて枯れてしまう場合が多い。昔(学生時代)、竹林はやがて樹木が侵入・生長し、樹林へと遷移すると習ったが、どうやらこれは竹林を管理している条件の下であり、放置すればそのようにはならないようである。現在環境省によって全国規模における植生図の改変作業が進行しているが、大幅な竹林面積の増大が明らかになるであろう。
 竹は一挙に生長するので、二酸化炭素の固定能力は高いと考えることもできるが、年月を経ても群落としては生物体量は増大しない。この点は大きなマイナス点である。竹林だけに限らないが、化石燃料削減のためには、このような森林資源の有効活用が開発される必要がある。

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