カタクリ Erythronium japonicum (ユリ科 カタクリ属)
 カタクリは北海道から九州の各地、朝鮮から中国にも分布する多年生草本。早春に斑のはいった特徴ある葉を展開し、可憐な花を咲かせる。初夏には葉を失い、夏眠する。結局の所、一年間の内、春の数ヶ月しか地上に姿をあらわさない。このようなライフサイクルは、落葉広葉樹における生育に良く対応している。落葉広葉樹が葉を展開し始める4月のはじめ頃、光環境はすでに春分の日(3月20日頃)を過ぎており、随分と太陽高度も上がって日照時間も長い。カタクリは、十分な日照条件と温度が揃った、わずか数週間を中心とした時期に高能率の生産を行っている。

 カタクリは片栗であり、地下の球根からは片栗粉が作られる。球根は土壌の数十cmほどの深い場所に作られ、掘り取ることは簡単ではない。球根採取には、鍬などの本格的な道具が必要であり、移植ごて程度ではまことに困難である。片栗粉を採取するためには、よほどの群生地においてかなりの体力が必要であろう。
 カタクリは「乱獲によって少なくなった植物」であるとされることが多い。たしかに少なくなっている植物であろうし、その原因の1つに乱獲があるとは思う。しかしながら、通りすがりに見つけた程度では、掘り取ることは大変困難であり、地上部を引っ張っても球根が付いてくることはまずない。乱獲であるとすれば、よほどの確信犯であろう。乱獲であるとすれば、カタクリから片栗粉を製造していた時代のほうがもっと徹底的であった可能性もあり、山草愛好家が採取する程度では、大きな影響を与えることはないと思う。カタクリの減少は、落葉広葉樹の雑木林が常緑広葉樹林へと遷移してきたことが大きな要素であり、林内の光環境が変化してきたためであると考えた方が良さそうである。
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