加計学園生態システム園に発達する森林の歴史
年輪解析による樹木侵入過程とその後の生長について

                                  I98G054 野間 久美子
はじめに
 年輪は現在までの樹木の生長過程を記録している。これらを解析することによって、現在の森林が形成されてきた過程を明らかにすることができると共に、近未来の植生を予想することができる。本研究では、異なる植生において、樹木の年齢と生長幅を解析することにより、生態システム園の森林植生の発達過程を明らかにすると共に、近未来の植生を予想することを試みた。

調査地と調査方法 
 加計学園生態システム園の植生図〔齋藤・寺下2000〕をもとにアカマツ群落〔ネズ・コナラ群〕5地点コナラ群落〔コナラ群〕4地点コナラ群落〔イヌビワ群〕アラカシ・アベマキ群落4地点から2000年に道を作った時できた樹木の切り株から円盤〔アラカシ・コナラ・カクレミノ・ヒサカキ〕を採取し、顕微鏡で年齢を数えSCALE LUPE 15Xで一年生長幅を測った。

結果・考察
アカマツ群落〔ネズ・コナラ群〕 マツ枯れがあるが、現在もアカマツ・ネズが多く出現する植生
 若いコナラの生長が著しくよいので次第にコナラが多くなると考えられるが、アラカシ・カクレミノは古い個体は大きく生長しているが、若い個体の生長は悪いので、アカマツが優占するものの、アラカシ・カクレミノの大きいものがまばらにあり林床にはヒサカキが生えているような植生になると考えられる。
コナラ群落〔コナラ群〕      林冠にはコナラなどの落葉樹が優占し、林床が明るい植生       
 若いアラカシの生長が良いことから、次第にアラカシが生長し、アラカシ林へと変わっていくだろう。コナラの古い個体は大きく生長しているが、若い個体の生長が悪い。アラカシが優占する中にコナラ・カクレミノの大きな個体がまばらにはえ林床にはヒサカキが生えている植生になると考えられる。
コナラ群落〔イヌビワ群〕、アラカシ・アベマキ群落    林冠を常緑が覆い林床が暗い植生
 アラカシは古い個体も若い個体も生長速度はあまり変わらない。今後もアラカシ林が続いていくだろう。
ヒサカキの若い個体の生長が良くなってきているので、ヒサカキが多く生育するだろう。しかしヒサカキの樹高はあまり高くなることはなく、樹冠を形成することはない。アラカシが多く生えるなかにカクレミノの大きな個体がまばらに生え、林床にはヒサカキが生えるような植生になると考えられる。

  表.異なる植生における樹木の樹齢と生長速度の違い〔数式は直径と樹齢の回帰式〕

アラカシコナラカクレミノヒサカキ
アカマツ群落〔ネズ・コナラ群〕 y=2.24x-23.02
古い個体の生長は良好だが、若い個体の生長は不良
y=0.14x+42.13
若い個体の生長が著しい
y=3.06x-34.7
古い個体は大きくなっているが、若い個体は著しく生長不良
y=1.07x-3.03
古い個体と若い個体の生長速度は変化ない
コナラ群落〔コナラ群〕 y=0.55x+17.36
若い個体の生長は良好
y=2.76x-21.1
古い個体は大きく生長しているが、若い個体の生長は不良
y=3.81x-38.47
古い個体は大きくなっているが、若い個体は著しく生長不良
y=0.85x-1.24
古い個体と若い個体の生長速度は変化ない
コナラ群落〔イヌビワ群〕アラカシ・アベマキ群落 y=1.4x-5.17
古い個体と若い個体の生長速度はあまり変わらない
サンプル不足 y=2.66x-31.27
古い個体は大きくなっているが、若い個体は著しく生長不良
y=0.66x+10.01
若い個体は生長が良好


まとめ
 同じ樹種でも、植生によって生長速度は異なっており、地力と日照条件の違いを反映しているものと考えられる。アカマツ林ではコナラは生長しつつあるが、アラカシやカクレミノの生長は不良であり、落葉樹林化しつつあるが、常緑樹林化の速度は遅い。コナラ群落では常緑広葉樹林化が進行しつつある。コナラ・アラカシの群落では、引き続きアラカシが生長して常緑樹林化が進行する。


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