3.調査項目・内容に関する問題点
委員会発足時点においては、すでに調査が実施され、調書のたたき台が作成されていた。事業開始はアセス法制定の前であり、規模も基準以下であるので、アセス法には則らない調査である。というより、法に引っかからない程度の規模の工事を連続して実施する形態で挑んでいるわけである。緑資源基準で作成された調書は、それなりの体裁を整えていると思われた。チャンとやっているとの印象を得てしまったのは失敗であった。
道路建設のような、線的開発に関するアセスメントは難しい。開発面積そのものは狭いものの、水の流れや生物の分布、移動経路などを分断してしまう。また、自動車や人間の利用・存在形態にも大きな変化がある。このために、個々の生物種によって影響の範囲が異なることになる。道路周辺の調査は当然であるが、生物種によってはその移動距離やテリトリーなどを考慮すると、非常に広範な調査が必要となる。今回の事例では、クマタカとツキノワグマに関しては、計画道路の周辺のみの調査では、正しく現状と影響を把握することはできない。
アセス法では、生態系を調査項目として取り上げ、典型性、上位性、特殊性などを例示している。一方、これにとらわれることなく、当該計画地における特徴を抽出し、その場にあわせた調査が必要であることも指摘されている。この精神を遵守すれば、当地では、どのような項目に関する調査が必要であったであろうか。
クマタカに関しては、当初から営巣が確認されていたことから、詳細な調査が実施された。日比野委員の談では、高いレベルの調査が実施されているとの評価であり、現時点においては、適切な工事が実施されるならば、影響は軽微であると結論されている。小生は猛禽類の専門家ではないので、この結論に意義をはさむものではないが、愛知万博における新たな営巣が頭をよぎる。新たなペアーが道路近辺に営巣したならば、愛知万博と同様に、計画の見直しが必要になるのは当然である。工事が実施され、多くの利用があるならば、新たな営巣地となる可能性の立地は喪失されるのは確実であろう。
ツキノワグマが取り上げられるべきであったのは当然である。しかしながら、当初の調書にはほとんど記載はなく、調査は実施されていなかった。最終的には、既存資料の収集と整理が行われたが、内容としては見るべきものはない。目撃例や糞などが確認されているものの、どの程度の利用状況か、生息状況なのかに関する調査が実施されておらず、現状が把握できていないからである。
細見谷のような渓谷における生態系においては、水生昆虫に関して詳細な調査が行われるべきである。水生昆虫に関しては、まったく調査が行われていないわけではないが、季節的にも量的にも十分な状態ではない。公共事業でよくあるパターンであるが、予算案成立の関係で、調査適期を逃すことがある。今回もそのような要素も絡んでいたものと推察される。水生昆虫に関しては、別項目で追記したい。
植物相に関する調査では、自然保護団体の調査と大きな違いがあった。両者とも総出現種数はほぼ同じであったが、両者に共通する種は60%をわずかに超える程度の一致率に留まった。当然リストアップされるべき普通種は両者が生育を確認しているのだが、双方とも40%弱の種を独自に確認していることになる。このような食い違いは、昆虫相調査などではよくおこってしまうが、再現性が高いといわれている植物相調査では、あまりおこらない現象である。
自然保護団体の調査メンバーには、広島県のRDB関係者も含まれており、素人集団による調査であると決め付けることはできない。両者の違いの原因としては、調査範囲が異なること、調査時期と回数が異なること等が考えられる。コンサルタントの調査は、路線決定がなされる前から実施されており、より広い範囲をカバーしているのであろう。また、予算決定と発注の関係から、早春から春季の調査が実施されておらず、この季節に同定が可能な種が大きく欠落している。一方、自然保護団体は、路線決定が行われた後を中心に、頻繁に調査を行っている。
自然保護団体のリストのみに記載された種の多くは、確認されて当然である種も多く、ラン科を中心とした貴重種も数多く含まれている。現在の植物相リストは不十分なものであることは明らかであり、したがって、これに立脚した保護対策の立案は根拠を失っているといえよう。
委員長は、最終の委員会において、自然保護団体にフローラリストに関する資料の提供を打診する発言を行った。調査の不備を認めた発言であった。