細見谷林道整備に関しては、自然環境の保全に留意した施工が前提であるので、数多くの問題点が指摘され、対策が立案された。主なものをリストアップしてみよう。
○新設区間を除き、ほぼ建設当時の幅員への復元であり、拡幅は行わない。
渓畔林区間では、拡幅をおこなわず、車道幅員は3mとすることに、比較的スムーズに決まった。現道の路肩付近に、貴重種とされた植物や植物群落、両生類の産卵場などが多数存在し、拡幅は自然への影響が大きいと判断されたからである。
現道が谷の部分を通る地域では、山すそとの間が湿地になっていることが多い。林道が谷からの流れをせき止めているためである。林道を建設していなければ、このような場所に湿地が形成されることはなかったであろうが、現時点においては、ヒキガエルやサンショウウオ類の産卵の場所として貴重なものとなっている。このような湿地は多様な植物の生育場所になっているとともに、路肩部分は複雑な環境を形成しており、草原生や林縁生の植物の生育場所となっている。
この林道の中核部分である渓畔林区間の拡幅を行わないことに決まった時点で、この林道は「幹線林道」としての役割を担えないことになった。速度を出して通行することができず、離合のためには退避場所が必要になった。
○部分的に、側溝の整備は行わず、素掘りの溝のまま残置する。
渓畔林区間の中で、湿地がある地域では、コンクリート二次製品による側溝を設置せず、現在の素掘りの溝をそのまま残すこととした。道路の拡幅を行わなくても、側溝を整備するのであれば、排水が促進され、湿地は消滅してしまう可能性が高い。素掘りの溝を残すことに関しては、自然への配慮として評価できるものの、湿地のレベルと道路のレベルの関係によってはあまり意味がない場合もあろう。今後、湿地には土砂がたまり、高まっていくものと思うが、将来的にどのようになるのかについて予測することは簡単ではない。
なお、側溝が整備される区間においては、U字型側溝ではなく、L型の側溝が整備されることになっている。L型側溝でも小動物の移動には障壁になるであろうが、U字型側溝ほどの壊滅的な影響に比べると、ずいぶんと軽減されるであろうと思われる。
○9%の区間、地下への透水性などに配慮し、砂利道として整備。
わずかな区間ではあるが、アスファルト舗装を行わない砂利道の区間が残された。砂利道を残す提案は、委員側から行われたものではなく、意外にも、緑資源からの提案であった。渓畔林の生態系維持には、雨水の地下浸透の維持が必要であるとの観点であった。砂利道に関しては、委員からも異論があった。砂利道では、継続的なメインテナンスが必要であることが、主な理由であった。
緑資源の趣旨を活かすならば、全域を砂利道としても良いわけであるが、勾配が急な場所では洗掘が生じやすいので、緩傾斜であって、湿地に接する地域のみが砂利道として選定された。その後、詳細設計の進行にともなって次第に砂利区間は減少し、最終的に9%に留まることになった。
少なくとも砂利道の区間は、頻繁なメインテナンスが必要である。完成後の管理を行う廿日市市からは、砂利道への強い懸念が表明されたが、緑資源は頑として砂利道を残す態度を堅持した。どうやら、当初から砂利道堅持の方針が上部決定されていたらしい。林道整備が実施されれば、廿日市市は頻繁なメインテナンスの責務を負うことになる。
○傾斜がゆるい場所に関しては、透水性舗装を行う。
アスファルト舗装を行う区間の中で、比較的傾斜が緩やかな区間においては、透水性のアスファルトを用いて、透水性舗装を行う。
近年、透水性の舗装が行われることが多くなった。通常の道路では、通常のアスファルトで基盤舗装を行い、その上に透水性アスファルトで舗装を行う。これは、透水性アスファルトでは大きな荷重を支えにくいためであり、透水性アスファルトのみでの舗装は、歩道などの荷重のかからない場所に限られていた。改良された高度な透水性アスファルトは、かなりの荷重に耐えられるとのことで、今回の計画は、基盤舗装を行わず、透水性アスファルトのみの舗装であるとのこと。
透水性のアスファルト舗装も、年月が経過すれば目詰まりして機能を果たせなくなる。このことに関して委員会でも話題となった。専門家の談によれば、目詰まりが軽度の段階で高圧洗浄を行えば、十分機能を回復できるとのことである。完成後の管理を行う廿日市市は、定期的に検査を行い、必要となれば高圧洗浄を行う責務を担うことになる。
○動物の移動経路を重視し、水系の連続性に高度に配慮した。
山からの谷を林道がまたぐ場所は、当初案ではそのまま現道の状況を保存し、それをまたぐ形で床板橋を設置するものであった。現状は、山からの土砂・巨礫が詰まっており、林道の上を越流している場所も多い。このような地点では、開口部を広く取った橋を作って改修する案となった。この広くなった橋の下は、動物の移動経路として確保されることになる。
すべての小動物がこの橋の下を通過してくれれば道路を横断するロードキルは防止できる。しかしながら、連続的に橋が存在しているわけではない。橋の下に向かって、誘導する柵の設置が提案されている。どの程度の機能を持つものか、またどの程度の耐久性があるものか疑問があるし、斜面の上部側から来る小動物にとっては、移動の阻害になってしまう可能性もある。
完成後は、柵の維持管理、橋下の開口部の管理を廿日市市は担う必要がある。
○線形を変更し、貴重種・重要植生に関し、可能な限りの影響軽減を行った。
道路の線形は貴重種や巨樹の存在のために、たびたび変更された。丁寧な対応であると評価することも可能。しかし、道路としてみると、それでいいのか疑問もある。当然のことながら、すべてをよけきれるわけではなく、また、よけたとしてもすぐそばを通る林道の整備によって、生育・生息できるとは限らない。根を切られた巨樹は台風などによって簡単に倒れてしまうであろう。
○両生類などの産卵環境を保全するために、代償措置としてビオトープを設置する。
現在の林道周辺には、ヒキガエルやサンショウウオ類などの産卵場所となる水溜りが点々とある。また、現在の林道上の水溜りにも産卵が行われている。林道の整備によって、これらの産卵場のかなりが失われることになる。代償措置として、ビオトープが設置される。
○貴重植物の中で、回避できなかった個体および群落に関しては、移植を実施する。
現在の林道の路肩付近は多数の貴重種が生育しているので、線形の変更では避けきれるものではなく、その結果として多くの植物の移植が必要になる。この件に関しては、いくつかの問題点がある。
まず、移植の成功率の低さである。今までの経験の中では、現生育地に類似した環境への移植が実施されることが多いが、現実的には成功例は少ない。本当にその種の生育地として適地であるのならば、すでにその種は生育しているはずであり、移植の意味はない。大規模な生育地の造成を行って、生育地を造成しての移植でなければ、移植は成功しにくい。
次に、移植適地の少なさがあげられる。貴重種のかなりは、路肩や現道の周辺に生育している。これらの生育適地は路肩などのような比較的日照量の多い場所である。現在の渓畔林地域においては、現道の路肩付近にしかそのような環境は存在しない。
移植地の将来的な担保にも問題がある。緑資源の管理する地域は現林道と拡幅や新設区間の道路部分のみに限られる。周辺は民地であったり、国有林であったりする。つまり、管理主体が異なるわけである。完成後においても同様である。これらの管理権限が及ばない地域における移植は、将来的にどのようになると考えればいいのであろうか? 伐採や間伐によって移植地の環境が大きく変化してしまう可能性が懸念される。
本計画は、8年間に及ぶ長期間の工事となる。そのような場合、初期に実施された移植の成果は、後年度の保全対策に活かされることでなければならない。前にも述べたように移植の成功率は高いものではない。初期に実施した移植が不成功に終わったことが明らかになった場合、それに続く工期において、同じ手法は採用できないことになる。
○新設区間に関しては、周辺の植林を強間伐することとし、夏緑広葉樹との混交林へ誘導する。
新設区間の一部では、良好に発達した落葉広葉樹林を通過するので、その部分は良好な森林の減少を招くことになる。スギ人工林を通過する区間では、落葉広葉樹林の代償として、強間伐を行い、針広混交林へと誘導することとなった。そのことは、道路新設を前提とすれば、好ましいことである。
問題は、道路の建設は確約されていても、強間伐が確実に実施される確証がないことである。5年ごとに改訂される「森林整備計画において、そのように定めてある」とのことであるが、財政破綻している林野において計画がまともに実施されるかどうか、ほとんど信頼に足らない状況であると思っている。
○発生する法面においては、周辺地域に生育している植物から採取した種子による緑化を行う。
外来牧草の播種による緑化を行わないのは当然である。発生する法面の緑化には、周辺地域に生育している植物から採取した植物種子による緑化を実施する。これによって、貴重種とされている植物の新たな生育も期待できる。
まことにすばらしい緑化である。小生の経験では、帰化植物を含まない、近隣地域に生育する植物の種子を、緑化に用いることができる程の量、集めることは至難の業である。そのことは何度も指摘したのであるが、先行例もあるし、実施できるとのこと。私には、絵空事としか思えない。お手並み拝見である。
工事の影響監視とモニタリング
○高いレベルのモニタリングを実施することとし、影響の度合いによっては工事の中止を含む対策を実施する「フォローアップ委員会」を設置する。
たびたび述べてきたように、調査が不十分である。その調査の不十分さに対する補完は、フォローアップ委員会で実施するとのことである。これに関しては、本末転倒であるのは明らかであり、工事を行いつつ、補完調査を行うことの正当性はない。
モニタリングを行うためには、工事着手以前のデータがあってこそである。現在の状況では、モニタリング作業を行っても、何が変化したのかは皆目わからないことになる。緑資源としては、わからないほうが良いということであろう。
運用措置
○夜間は、車両の通行を禁止する。
ロードキル、特にツキノワグマなどへの影響を軽減するため、夜間通行禁止が提言され、委員会としては了承された。ツキノワグマへの夜間通行禁止の効果に関しては、疑問の声も聞かれ、有効性に関しては更なる検討が必要かもしれない。夜間通行禁止の効果は別として、委員会では了承されたものの、また、報告書には記載されたものの、その実施の確約性に関しては霧の中である。
電気のない場所でどのようなゲートを設置するのであろうか? 経常的な管理が必要であるが、その管理を担うことになる廿日市市の態度や如何?