ギャップ gap
英語の単語としては、割れ目とか隙間、欠落などの意味がある。植生学では、「林冠ギャップ」などのように、森林の高木層を形成している樹冠に隙間がある状態に対して使われる。
樹木は開いた場所に向かって枝葉を生長させるので、隣接する高木の間には隙間(ギャップ)がほとんど無い状態であるはずだが、実際には台風などによって樹木倒れたり、大きな枝が折れたりするような場合や、病気や寿命などによる枯死によってギャップが形成される。
ギャップの形成頻度は、森林の発達時期によって異なる。伐採跡などに一斉に発達を開始した若い樹木によって構成されている若い森林(建設相)ではギャップは形成されにくく、形成されたとしても大きさは小さく、隣接する樹木の生長によってギャップは速やかに閉じられてしまう。森林が十分発達し、極相林と呼ばれる段階になると1本の樹木が枯死すると巨大なギャップが形成されることになり、隣接する樹木の生長によっても簡単には閉塞されず、長期間にわたってギャップが存在することになる。
このようなギャップでは、林床に多くの実生が発生し、次の世代を担う樹木が生長を開始する。一般に極相林と呼ばれる森林は、成熟した森林部分と衰退し始めた森林、そしてギャップとその回復途中の若い森林がモザイク状に分布している状態であり、一様なものではない。極相林の多くは、このようなギャップ形成によって回復し、更新していくと考えるべきであるとの考え方をギャップ更新という。
二次遷移の初期段階に侵入する樹木の中には、ギャップ形成直後に侵入し、いち早く生長して比較的短期間に寿命を終える植物群がある。これらの樹木は、上空に開いた空に向かって幹を伸ばし、葉を広げる。一枚の葉は大きく、真上からの光を受け止めるのに適した形・付き方になっている。
ヤマウルシやヌルデはその典型であり、種子寿命も長く、土中でギャップ形成を数十年にわたって待ち続けている。幹はあまり枝分かれせず、高さの割には太くならずに高い位置にまとめて葉を付け、上方からの光を受け止めるのに適た形である。早い段階で種子を形成し、ギャップが閉じる頃には十分な数の種子をばらまいているわけである。ヤマウルシに比べると大きくなるが、コシアブラやタカノツメなどもそのような性格が強く、根の発達は貧弱である。風の当たらないギャップの林床で生育する戦略に合致している。おそらく、ホオノキやトチノキもそのような性格の一部を備えているに違いない。
ギャップでは、土壌が形成されているので上記のような二次林の植物が一旦急速に生長するが、やがてその下層でゆっくりと生長していた極相林構成種に席を譲ることになる。
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