ミゾソバ Persicaria thunbergii var. thunbergiiタデ科 イヌタデ属
 国指定天然記念物の鯉ヶ窪湿原では、ハンノキ林の林床にミゾソバが繁茂してリュウキンカなどの生育を阻害する状況になった。水の流れなどを改善する対策を実施したが、1年目はあまりミゾソバの勢力は落ちなかった。秋に訪れてみると、開花はしているのだが稔実率は明らかに低く、種子がほとんどできていなかった。にもかかわらず、次年の春にはたくさんの芽生えが形成された。これは埋土種子によるものか・・・?

 ミゾソバを引き抜いてみてびっくりした。地表をはう茎からは枝分かれし、その先端には閉鎖花が形成され、しっかりと種子を土の中に埋め込んでいる。閉鎖花とは、花を開かずにそのまま自家受粉し、種子を作るものである。花を開かずに受粉を行うので、確実に種子を形成できる半面、遺伝的には多様性が減少することになる。ミゾソバのような、ちょっとした出水でもなぎ倒されてしまうような場所に生育している植物の生き残り戦略である。

 鯉ヶ窪湿原で観察したミゾソバには下の写真のように閉鎖花がたくさんついていた。その後、田圃のほとりに生育しているミゾソバを引き抜いてみても閉鎖花が見当たらない。富栄養な場所では閉鎖花を作らないのか、または系統が異なるのか、今後の課題である。鯉ヶ窪では、貧栄養状態に陥ったので、まずは閉鎖花を作って確実に種子を残す戦略となったのかもしれない。富栄養環境では閉鎖花をつける必要がないのだろうか・・?

 現在では採用されていないが、牧野植物図鑑にはオオミゾソバ P. thunbergii var. stoloniferum なる種が掲載されており、地中茎を形成して閉鎖花を付けると記載されている。普通のミゾソバが閉鎖花を付けないのならば、このタイプはオオミゾソバということになる。

地表をはう茎から出た根と地中に入り込む閉鎖花

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