セツブンソウ Shibateranthis pinnatifida (キンポウゲ科 セツブンソウ属) |
私の知るセツブンソウの生育地のほとんどは、堆積岩地域に位置している。また、決まってクリ林や採草地、畦などの、定期的な草刈りの行われている場所であり、北向き斜面の場合が多かった。あるところでは、ほったらかしにしていた斜面の竹林を切り開いたら生えてきた、なんて言う話も聞いたことがある。 セツブンソウやカタクリなど、早春に開花した後、2〜3ヶ月の短期間で一年の生活サイクルを終える植物を総称して早春植物「Spring Ephemeral:春の妖精、春のはかない命」などと呼ぶ。これらの種は、高さ10センチほどの小型なものがほとんどで、地下に塊茎などの貯蔵器官をもつ多年生草本が多い。また、種子から芽生えて開花するまでには、数年間を要する種も少なくない。 これらは、まだ気温の低い時期に発芽、展葉して光合成を開始し、他種が生長してくる前に地上部を消滅させ、店じまいする。実際に早春の落葉広葉樹林の中を歩くと、その林床は真夏に比べてビックリするほど明るい。常緑広葉樹林や比較的常緑樹の多い南向きの斜面ではこうはいかないだろう。しかし、光環境の良好な早春の落葉広葉樹林ではあるが、やはり効率の良い光合成を行うには気温は低くすぎる。一般に、セツブンソウやカタクリは開花までに5年ほどの歳月を必要とするらしく、開花するに十分な栄養分の貯蔵にはかなりの時間がかかるようだ。 一方、堆積岩地域には、急傾斜地や崖錐の厚く堆積する不安定斜面が見られ、特に北向き斜面では草本層の植被率の低い場所が稀に存在する。このような場所が、自然状態での早春植物の生育地だったのであろう。こんな場所はかなり限定されていそうだ。早春植物達はもともと生育に適する環境の少ない植物種群であったのかもしれない。 |
文章・画像:森定 伸 |