オヒルギ  Bruguiera gymnorrhiza (ヒルギ科 オヒルギ属
 オヒルギの果実はおもしろい。普通の植物であれば、胚は細胞分裂して一定の大きさまでに生長すると休眠して種子を形成する。オヒルギの場合は、受精の後胚が生長を続け、大きな太い根を形成する。種ではなく、大きな幼苗ができ、これで繁殖するわけである。このような仕組みは、ほ乳類が大きく育った子供を産むのと同じであり、これも胎生と呼ばれている。小さな種子を散布するより、ある程度育った大きな苗を散布することは、定着には有利に違いないが、どうやってこの苗をオヒルギは植えるのであろうか?

 「オヒルギの果実は、落ちて地面に突き刺さってふえる」と昔聞いた。実際にマングローブ林に行って試してみたが、地面は結構堅く、落としても簡単には刺さらない。投げ上げてみたり、場所を変えてみたりしたが、全く刺さらない。どうやら落下して突き刺さるのではないようである。その後、オヒルギの果実は部位によって比重が違い、汽水域では立った状態で海底を移動し、カニの穴などに入って定着する事を知った。果実の上部は比重が小さく、下部は大きい。海水中では完全に浮き上がって横になり、遠方まで運ばれる。一方、淡水では沈んで底に横たわってしまう。汽水では、沈むけれども上部が軽いので立ち上がり、波に揺られてゆらゆらと海底を移動する状態になる。そのような時にカニの穴などがあると落ち込んで刺さることになる。カニの穴は垂直であるとは限らないが、やがて曲がって垂直に立ち上がる。海水と淡水の比重の違いとマングローブに棲む動物を利用した、見事な定着の戦略である。

 マングローブには、そんなにたくさんカニがいるか? 大変たくさん居ます! ものすごい数ですが、近寄ると全部潜ってしまい、簡単には写真に撮ることができません。下の画像はミナミコメツキガニだそうです。泥上の黒い点々は全てカニさんです。この数以上に巣穴があるわけです。このほか、大きな穴を掘るオキナワアナジャコなども生息しており、高さ1mほどの塚を作り、マングローブの地形を複雑にしています。
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